株式会社テクノアソシエーツ FPD業界・装置・部材メーカーの東アジア進出課題〜知財戦略&情報セキュリティの複合課題と解決方法 電子産業・成長戦略フォーラム


東アジア進出における知財情報の漏洩シーン
[2006/04/21]

 日本の電子産業企業が東アジア地域(中国,台湾,韓国)に進出する際,経営上の課題として浮上してきた知的財産と情報セキュリティの課題のうち,今回は,知財を守るための情報セキュリティ・マネジメントの必要性について議論する。さらに,理解を深めるために,知財情報漏えいの具体的なシーンを例示し,アジアで情報漏えいが起きやすい要因を列挙する。

 知財戦略において情報セキュリティ・マネジメントは重要な位置を占める。知的財産戦略の実現手段は,公知化(特許・実用新案・商標などの登録),秘密保持契約(NDA)締結,ブラックボックス化の3つに大別される。このうち,情報セキュリティ・マネジメントを厳密に確立しなければならないのはNDAを締結した場合とブラックボックス化の手段を採った場合である。
 NDAは,取引相手に開示する情報をトレード・シークレットに指定して締結する。NDAを締結することによって,相手が契約に違反したことが明白であれば損害賠償などの請求が可能であり,情報の開示先が限定しやすいという点で扱いやすいといえる。注意しなければならないのはNDAを締結しても,情報セキュリティ・マネジメントを確実に運用・管理しないとその効力が発揮できないことである。秘密情報を社内で確実に管理するとともに,先方に渡す場合にはNDA対象であることを明示する必要がある。さらにNDA対象情報として,いつ・誰に・どのような情報を提供したかを記録しておくことが望ましい。相手先の受け取り書があれば一層安全になる。
 ブラックボックス化する場合には,自社内で情報セキュリティ・マネジメント体制を整えておかないと,万が一情報が流出して競合企業がそれを利用した場合に,相手をけん制することも,損害賠償を請求することもできない。一方,確実に秘密を管理すれば優位性を確保しやすい。
 情報セキュリティ・マネジメントを確立するためには,まず危機がどこに潜んでいるかを認識することが不可欠である。事業拡大のために国際化が必要な今日,危機を認識しないまま海外進出を図るのは危険である。的確な危機の認識と適正な情報セキュリティ対策が求められている。

清掃人のバックグラウンド・チェックは海外では常識
 知財情報漏えいの具体的なシーンの例として,清掃人などを使った産業スパイが挙げられる(図1)。海外では,社内に入る人間のバックグラウンド・チェックをすることは,情報セキュリティの常識である。情報漏えいの大多数は内部犯罪によるものであるだけに,どのような職種に属する人であろうと,社内への立ち入りを許可する人物の信用を確認すべきである。
 一般的に情報漏えいが起きる要因としては,(1)「守るべき知財」に関する組織共通の認識の欠如,(2)アジアの環境認識に関する錯誤,(3)「日本国内であれば安心」という判断,(4)情報セキュリティを管理することの本質への理解の甘さ,(5)現地の文化風土にあった運用の欠如,などがある。
 このうち,(1)の具体例としてQC(quality control)活動などの職場改善運動の習慣が,情報漏えいの原因になることが挙げられる。QC活動では現場で生産ノウハウなどの情報を共有し,関係者全員が改善努力をする活動である。このため,職場では上下区別なくすべての情報を共有する。その結果,現場での生産ノウハウが蓄積され,競争優位性を保つことができるようになる。この生産ノウハウ入手が外国企業の狙いとなることが多い。海外進出する際に,トレード・シークレットとすべき生産ノウハウであるにも関わらず,日本での習慣に基づき現地の労働者と共有してしまい,重要な知的財産が流出することが起きやすい。
 (2)として挙げたアジアでの錯誤については,仲間意識が災いする。日本人と外見がほとんど変わらないアジアの人々で,特に日本語の堪能な人と仲良くなると,相手を日本人と混同してしまいがちだ。この結果,仲間だから分かっているはずだと錯覚していると,信頼していた仲間が当方の意図を十分理解しないために,本来守るべき秘密情報を漏らしてしまう。

図1
事務所長: 「うちのセキュリティは完璧だと思います。入退室は、先ほどご覧になったように指紋認証によりチェックしています。もちろん、システム的にも、ファイアウォールをはじめ全部日本企業で整備してもらいましたから」
コンサルタント: 「そうですか。ところで、今、ごみを捨てに行った方のバックグラウンド・チェックはどうされていますか?清掃会社とは、どのような契約をされているのでしょうか?ごみにまぎれてCD-ROMなどが、持ち出されないようにチェックできていますか?」
事務所長: 「・・・・!」

「日本国内であれば安心」も改めるべし
 (3)に示した「日本国内であれば安心」という判断は改める必要がある。情報に関しては国境の垣根が非常に低い。情報通信メディアの発達により,情報はリアルタイムに世界を飛び回っている。インターネットに接続できれば,世界の裏側でも日本の情報をリアルタイムで見ることができる。さらに,メールにより昼夜を問わない意見交換が行われている。国際電話会議も珍しくなくなった。このような環境では,日本国内であろうとも海外の都市と情報が共有される可能性が高い。つまり,情報管理は国際的な視点で適切に行わなければ,日本国内から簡単に海外に漏えいしてしまう恐れがある。
 (4)の情報セキュリティへの理解不足の代表的なものとして,経営者が情報セキュリティについて十分に理解していない場合が挙げられる。その典型が,情報セキュリティを情報システム・セキュリティと狭義に解釈し,セキュリティ機器を装備するだけで十分としてしまうケースである。このケースでは人の管理が行き届かない。情報セキュリティには人とシステムの両方の管理が必須である。情報はシステムにもあるが,最終的には人が扱うものである。人の管理が不十分であれば,情報の漏えいや損傷が生じる可能性が高くなる。
 人の管理は結局(5)に示す文化風土と関連が強い。文化風土の相違は法令の相違にも現れる。世界貿易機構(WTO)加盟国であれば最低限の経済的な法令は整備されている。ただし,法令の運用になると,経済犯罪に関する国民の理解水準が相違するために,国によりかなり様相が異なる。運用が緩やかであれば,法令違反の抑止効果があまり期待できない。一方,人の管理のために厳格な抑制規程(例えば同業種への転職禁止)を導入しようとすると,雇用関連法違反に問われることもある。情報セキュリティに関わりの深い知的財産保護や商取引,あるいは雇用慣習については各国の事情が異なるため,それぞれの国の状況を十分に理解して必要な対策を採ることが,海外進出では不可欠である。
(永宮直史=インフォセック)



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レポート・ハイライト
東アジア進出時の知財戦略における,情報セキュリティの実装方法と管理対策
東アジア進出における知財情報の漏洩シーン
ブラックボックス化戦略と特許戦略の使い分け,契約戦略
インク・ジェット装置メーカーにおける知財ガバナンス
液晶関連メーカーの経営課題と知財・情報セキュリティ
韓国・台湾LCDパネル戦略と日本の装置・部材戦略
LCD関連企業,東アジアで知財と情報セキュリティに課題

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