インク・ジェット装置メーカーにおける知財ガバナンス
[2006/03/08]
日本の電子産業企業が東アジア地域(中国,台湾,韓国)に進出する際,経営上の課題として浮上してきた知財ガバナンスの詳細について,具体的な例を挙げて議論し,個々の事例を詳細に分析していく。 日本のインク・ジェット装置メーカーが韓国のパネル・メーカーに装置を販売する場合 例として,日本のインク・ジェット装置メーカーA社が韓国のパネル・メーカーB社にインク・ジェット装置を販売し,B社はそれを使用してカラー・フィルタを製造し,パネルに使用する場合を考える。ここでは,必要に応じてA社がB社に対しインク・ジェット装置のエンジニアリング・サポートを実施する。具体的には,A社はB社の工場に立ち入り,装置の搬入から立ち上げまでの間に,プロセス・レシピなどのノウハウ情報を提供する(図1)。 図1:日本のインク・ジェット装置メーカーが韓国のパネル・メーカーに装置を販売する場合 一般的に,日本のインク・ジェット装置メーカーが事業を進めていく上で, (1)第三者特許侵害の課題 (2)既有技術確保の課題(ブラックボックス化・特許化) (3)ノウハウ開示の課題 (4)内製化および下請製造の課題 (5)情報コンタミネーションの課題 の5つが知財・情報セキュリティ関連の課題として出てくる。 ここでは(5)の情報コンタミネーションの課題を取り上げる。通常,装置の立ち上げやメインテナンスに代表されるエンジニアリング・サポートを行う際、A社はB社の工場に立ち入る。その工場には他社の装置や独自の工程など,秘密として管理されている情報が多数存在する。このため、B社はA社に対して秘密保持誓約書を求め,工場内で知り得た秘密情報を第三者に開示しない,エンジニアリング・サポート以外の目的では使用しない,という2大制約を課す場合が多い。A社が秘密保持を確実に履行すれば良いが、管理体制の不足や従業員の意識欠如から第三者に漏洩してしまうリスクがある。これがこの例おける最大のリスクである。この場合,A社は契約不履行で損害賠償を求められてしまう。 なお契約内容によっては,一般的な秘密保持契約に記載される「適用除外」事項が記載していなかったり、知り得た秘密情報の秘密保持期間についての記述がなく半永久的に義務を負っていたりする場合がある。このような契約では、A社のビジネス展開に支障を来たしてしまう恐れがある。例えば、完全なカスタム製品ではない限り,B社以外にも装置を販売したくなるのが一般的である。場合によっては,B社から知り得た情報を基にバージョン・アップした製品を開発・販売する場合も考えられる。A社は、B社から制約を課されないように秘密情報の開示を受けないようにする,もしくはB社からの制約を極小化する、といったことが課題になる。 このほか、A社はB社以外とも同様の取り引きをしている場合が多く、その場合は各社と取り交わした秘密保持契約の情報を混同してしまわないよう、契約管理をきちんと行うことが重要になる。 |
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