韓国・台湾LCDパネル戦略と日本の装置・部材戦略
[2006/01/27]
最終製品である薄型テレビ市場やそこに使われるLCDパネル市場の見通し,これによって生じた韓国・台湾を中心としたLCDパネル・メーカーの事業課題を、前回(第1回)は明らかにした。これを受けて、今回(第2回)は韓国・台湾を中心としたLCDパネル・メーカー側の戦略と,日本の装置・部材メーカーが採るべき戦略に関する指針を提示する。 部材のコスト削減ならびに安定調達を実現するために,韓国・台湾パネル業界が打ち出している戦略について述べる。主な注力点は以下の二つである。 (1)内製化の一層強化 (2)技術イノベーション開発に対する大型投資 海外メーカーの誘致から内製化へ (1)の内製化については,現状では韓国・台湾のLCDパネル・メーカーが,すぐに部材事業(および製造装置事業)のすべてを内製化することは難しい。部材事業における技術・産業のすそ野の広さへの対応と,研究・開発への長期間に渡る投資の継続が必要だからである。このため韓国・台湾は,まず海外部材メーカーの国内への誘致(提携や合弁会社設立を含む)による内製化や,海外部材メーカーの工場を自社敷地内(もしくは近隣)に誘致するクラスター化を,メーカーと行政が一体になって積極的に推進している。 例えば韓国Samsung Electronics Co., Ltd.は,主要部材のほとんどを自社,グループ企業,提携部材メーカーから調達できる体制を整えた。第5世代までにガラス基板,カラー・フィルタ,ドライバICを調達できるようにしたほか,第7世代ではバックライトに関してもグループ企業から調達できるようになった。加えて,工場の隣接にガラス基板工場を建設するなど物流コストの削減にも取り組んでいる。韓国LG.Philips LCD Co.,Ltd.と台湾Chi Mei Optoelectronics Corp.(CMO)も,偏光板などの光学フィルムをグループ企業から調達できる。 韓国・台湾の行政の取り組みとしては,韓国が2003年に18%だった自国調達率を,2005年までに50%に向上させる産業政策として目標を立てた。台湾は,2008年までに装置の自国調達率を50%,部材に関しては70%まで上げる目標を立てている。具体的には工業団地の建設,優遇税制,低金利での融資,行政資金の提供,国家プロジェクトなどがあり,期待される効果としては,企業誘致,共同開発,合弁企業の設立,自国企業の育成,内製化の推進などが挙げられる。 日本の部材メーカーは進出しなけば市場は失われる このような状況を踏まえて,日本の装置・部材メーカーは対韓国・台湾戦略を構築する必要がある。韓国・台湾を含めた東アジアに進出する場合,資金調達,資材調達,知的財産流出,情報セキュリティ,人事など様々な面で経営上のリスクが伴うことが予想される。このため,東アジア進出に二の足を踏む企業が多い。 しかし,進出しないことはリスク回避にはつながらず,むしろ市場自体を失いかねないような大きなリスクとなり得る。韓国・台湾のLCDパネル・メーカーが現在のような不自由なサプライ・チェーンを甘んじて使い続けるはずはなく,日本の部材メーカーに頼らない代替案の採用を進めるからである。 代替案は意外に多い。カラー・フィルタのように材料と製造装置を輸入して,LCDパネル・メーカーで製造する方法などである。部材調達がままならない場合には,材料産業で実績がある欧米の企業から調達する可能性も探るだろう。当然,自国での技術開発への投資も増える。競合を増やすばかりだ。現在のように,有利な交渉が可能なうちに,ポジションの維持に努める方が得策かもしれない。 技術開発面での進境著しい韓国・台湾 (2)の技術イノベーションについては,長らく日本のLCDパネル・メーカーが先行・優位を保っていたが,ここ数年の韓国・台湾LCDメーカーの進境は見逃すことはできない。事実,LCDのパネル・サイズ,画素数,視野角,輝度,応答速度,色再現範囲,色数といった技術分野は,韓国・台湾LCDパネル・メーカーが日本のLCDパネル・メーカーをすでに追い越している。今後に向けては,特に韓国パネル・メーカーを中心に標準化と独自技術開発を積極的に推進している。 このうち標準化は,自社技術を標準化していくことが知財戦略,引いては事業戦略を立てる上で非常に重要だ。標準化することにより,部材・装置の共通化が図れる。これにより量産効果や開発費の集中といった利点を得られる。現在はLCDテレビでもLCDモニターと同様にパネル・サイズのみが仕様の条件となる標準化が進んでおり,韓国メーカーは,積極的に自社技術の標準化に向けて活動している。一方独自技術については,Samsungが製造装置において日本とは異なる技術を独自の規格で開発している。Samsungは,この新しい独自企画の技術開発に関して,外国の装置・部材メーカーにも幅広く参加を呼びかけている。当該装置の取り引きについては,装置の共同開発への参加を前提条件としている。このようにSamsungは研究開発の強化を前面に押し出している。 日本だけが技術開発のトップランナーではない 各サイズで別個に業界標準化の動きが進んでいる現在,日本の装置・部材メーカーは『どこのサイズの業界標準に対応した製品を開発するか』を選択し,事業戦略を立てなければならない。もはや製造技術の開発のトップランナーは日本だけではないことを前提として,先端の製造装置や部材の開発では,海外のLCDパネル・メーカーと共同で研究開発段階からの協力体制が必要になる。 このような状況は,装置メーカーにとっては,新たな大口顧客を開拓できる可能性がある新たなビジネス・モデルの可能性開発費を分担してもらうことができるメリットがある一方,海外進出のリスクを抱える要求仕様の多様化によって,製品の標準化が困難になるデメリットが生じる可能性がある。また,部材メーカーにとっては,新たなビジネス・モデルの可能性 開発費を分担してもらえるメリットがある一方,韓国・台湾の台頭による既存アライアンスの弱体化や海外進出リスクを抱えるデメリットが生じる可能性がある。 製造装置・部材メーカーに要求される知財管理・情報セキュリティの課題 上記のような状況から,日本の装置・部材メーカーは,東アジアでは知財管理・情報セキュリティの体制が不十分なことを考慮した上で,東アジア進出戦略を立てていく必要があることが分かる。では,知財管理・情報セキュリティ上の課題としては,どのようなものがあるのだろうか。 詳細については本連載の次回以降で議論していくため,今回は主なものを例示するに留めるが,それでも以下の通りである。共同開発が進むことから,知財のオーナーシップの明確化や,自社技術の確保(特許化やブラックボックス化)が重要になってくる。クラスター化に伴う問題としては,ノウハウ開示の課題などが生じる。共同開発に伴う情報コンタミネーションの問題や,提携先の技術者の転職に伴う情報漏えいの問題などにも留意する必要が出てくる。さらにブラックボックス化した場合には,情報が流出して大きな損害が発生してもその損害賠償をすることばなどができないため,情報セキュリティ施策の徹底が必要になるといった具合に,知財ガバナンスと情報セキュリティ施策との一体施策が重要になる。 |
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