液晶関連メーカーの経営課題と知財・情報セキュリティ
[2006/02/20]
日本の液晶関連メーカーが東アジア地域(中国,台湾,韓国)へ進出する際の問題として、経営課題と知財ガバナンス・情報セキュリティ管理体制の関係について議論していく。部材のコスト削減ならびに安定調達を実現するために、韓国・台湾パネル業界は (1)内製化の一層強化(産業クラスタ化、グループ企業での内製化など) (2)技術イノベーション開発に対する大型投資(標準化の積極推進、新技術に研究開発投資) を戦略として打ち出している。このことから、日本の装置・部材メーカーは「もはや製造技術の開発のトップランナーは日本の液晶パネル・メーカーだけではない」ことを前提として、海外LCDパネル・メーカーと研究開発段階からの協力体制を構築する必要が出てきた。この結果、従来の装置・部材といった製品を供給する場合には生じなかった知財ガバナンス・情報セキュリティ管理体制の課題が出てくる。 日本の装置・部材メーカーは、現在の優位なビジネス・ポジションを堅持していくため、このような研究開発段階からの協力体制の構築における知財ガバナンスと情報セキュリティ管理体制を構築しなければならない。それをしないまま東アジアに進出すると、製造ノウハウや営業秘密といった経営上の重要機密や競争力の源泉が流出してしまうからである。 製造装置・部材メーカーに要求される知財ガバナンス・情報セキュリティの課題 日本の電子産業にとって一般論として、国内の企業と海外の企業が研究開発段階からの協力関係を構築して海外拠点を構築しようとした場合、知財ガバナンス・情報セキュリティ管理体制を構築する必要がある。 図1 この図から,知財ガバナンス・情報セキュリティ管理体制は,いわゆる知財・情報セキュリティといった言葉から連想される狭い範囲での体制構築ではなく,研究開発戦略や経営戦略を含めた企業戦略と密接に結びついて体制構築されなかればならないことが分かる。この点について,電子業界に精通している弁護士の鮫島正洋氏は「ノウハウ管理と知財管理との関係,さらには,これらと研究開発投資がいかなる関係にあるのか,これらを総合して,企業はいかなる戦略を立てるべきなのか,というより相互連関的,マクロ的な視点で論じる必要があるのではないだろうか」と指摘している。同様に情報セキュリティも,経営の観点や選択した知財戦略との関係から構築すべき情報セキュリティ管理体制が決まる。また,経営上重要な知財や情報を管理するためには,提携などにおける契約管理,共同開発拠点・製造拠点での情報管理,人材流出に伴う知財流出などの人事管理など,各部門にまたがった複合的な問題解決ノウハウが要求される。すなわち,知財ガバナンスや情報セキュリティ管理は,企業の経営戦略と密接に関係し,さらに研究開発,製造,営業,人事,法務などの各部門にまたがる複合的な課題になっている。 ブラックボックス化戦略と特許化戦略 このうち,ここで議論しているの東アジア企業との研究開発段階からの協力体制においては,それぞれの企業・研究所などが考案した技術シーズを発掘したりその技術シーズ同士が覇権を争う技術間競争を繰り広げたりする研究イノベーション段階,その技術を使った開発によって製品を生み出す製品化段階での知財ガバナンス・情報セキュリティ管理体制が重要になる。この戦略としては,ブラックボックス化戦略と特許化戦略の二つに大きく分かれる。 ブラックボックス化戦略は,自社の競争力の源泉になる技術を公知にせず,競合他社に知られないようにすることで,競争力を維持する戦略である。特許化戦略に比べ,確実に秘密管理ができれば優位性は確保しやすい特徴を持つ。ただし,万が一情報が流出して競合企業がそれを利用した場合,立証の困難さの観点から相手を法的にけん制することは難しい。このため,情報セキュリティ施策の徹底が必要になるといった具合に,知財ガバナンスと情報セキュリティ施策との一体施策が重要になる。共同開発に伴う具体的な問題としては,共同開発先への情報開示の問題,共同開発成果の知財オーナーシップの問題,提携先の技術者の転職に伴う情報漏えいの問題などに留意する必要がある。 一般にブラックボックス化戦略を採る企業は,対象となる情報資産の価値を十分認識しており,情報流出のインパクトが分かっているので,しっかりした情報セキュリティ対策を実施している場合が多い。情報セキュリティ管理を確立し,実行していくためには,まず危機がどこに潜んでいるかを認識することが不可欠である。日本は同一民族で閉鎖的な社会の歴史が長く,周辺諸国との緊張関係に常時さらされてきた他の民族の社会に比較すると,危機に対する認識が甘くなりがちである。その状況で危機の情報に接すると,今度は進出そのものを躊躇し,せっかくのビジネス機会を失することも少なくない。事業拡大のために国際化が必要な今日,まず的確な危機への認識と適正なセキュリティ対策が求められている。 特許化戦略では,特許の出願や権利化はもちろんのこと,その特許が関連する技術に関して海外企業と協力関係を構築する場合,その権利を失わないように契約内容を適切に管理していく必要がある。交渉段階などから厳密な契約を結ぼうとすると相手との交渉が困難になってビジネス機会を失ってしまう。その一方で,適切な段階で契約を結ばないと,自社の権利が正当に維持できない恐れが出てくる。特に,東アジアの企業と協力構築しようとする場合,東アジアでは知財関係の法整備・運用が十分ではなかったり日本とは考え方が違っていたりする場合が多く,その点を考慮した知財戦略を構築していく必要がある。ここで重要になるのが,競合企業に対して優位な特許ポートフォリオの構築である。優位な特許ポートフォリオを構築することで,特許ライセンスによって競合企業にコスト面で圧力をかける,特許プールを構築した場合でも市場に対する影響力を優位に展開させるといったことが可能になる。 なお特許化戦略を主力にしていても,関連技術や周辺技術についてはブラックボックス化したりNDAを結んだりしている場合も多い。このような場合は情報セキュリティ管理を合わせて実施する必要がある。この点では,ブラックボックス化戦略と同様の情報セキュリティ管理を実施しなければならない。 |
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