[2011/04/13]
デマンドレスポンス(需要応答)とは、電力網における需要(デマンド、特にピーク需要時)に応答して顧客が電力消費を低減したり、他の需要家に余剰電力を供給したりすること、またはそのような仕組みを指す(図1)。スマートグリッドでデマンドレスポンスと言えば、一般にはそれが自動化されたものを意味する。3月11日に発生した東日本大震災以降、関東地方では東京電力や政府の要請により、消費者や企業が節電を行っている。これは、人手による(自動化されていない)デマンドレスポンスである。古くは、米国のニューヨーク大停電(1977年)やカリフォルニア電力危機(2000年)の際に行われた節電も人手によるデマンドレスポンスということになるだろう。
このように、デマンドレスポンスという概念自体は以前から存在していた。この概念が脚光を浴び実際に見られるようになったのは、電力網と情報通信網が統合されたスマートグリッドが米国で実用的な技術として導入され始めてからである。今後、欧米ではスマートグリッドの普及により、高コストで環境負荷の高いピーク時の火力発電施設の稼働や外部からの買電が、より柔軟で低コストなデマンドレスポンスによる電力需給調整に移行していくと予想される。
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図1 デマンドレスポンス(DR)の概念
DistribuTECH 2011資料“Benefits of Using Customer Distributed Generation for Demand Response”を基にテクノアソシエーツが作成
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電力の需要供給ギャップ調整メカニズムとしてのデマンドレスポンス
デマンドレスポンスを電力の需要供給ギャップを調整するためのメカニズムとして捉えると、実はこのような需給ギャップ調整メカニズムが、既に我々の身近な分野にもあることが分かる(図2)。
例えば、ゴールデンウィークやお盆休み、年末年始などの連休では、東京などの大都市から地方都市や海外へ向かう飛行機の航空運賃、ツアー料金が平常時や閑散期の2倍位に跳ね上がる。同様な価格体系は、レンタカーやホテルなどにも見られる。すると、この料金でも絶対に利用したい、あるいは利用しなければならない顧客以外は、この時期の利用を回避してもっと料金の安い平常時や閑散期に航空券やパッケージツアーを購入するようになる。このようにして、需要や時期に応じて価格を変動させることによって、限られた供給量の商品やサービスと需要が調整される。
電力産業におけるデマンドレスポンスも、基本的には時期や需要に応じて変動する航空券やホテルの価格と同じなのである。ただし、デマンドレスポンスを導入するためには、時間帯や需要に応じて動的に変動する電力料金プランを予め導入する必要がある。デマンドレスポンスの導入で先行する米国では、需要者のニーズや電力使用パターンに応じた様々な電力料金プランの導入が始まっている。
動的に変動する電力料金プランの例としては、最も深刻なピーク時に電力料金が平常時の数倍以上にもなるCritical Peak Pricing(CPP)や、使用時間帯別料金(Time of Use:ToU)などがある。いずれの料金プランも、ピーク時の電力消費を避けることで電力料金を現状よりも節約することが可能となるように設計されている。
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図2 各産業における需給ギャップ調整メカニズムの例
米Southern California Edison社の資料を基にテクノアソシエーツが作成
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電気自動車の充電でもデマンドレスポンスが必要
現在、米国で導入が進むデマンドレスポンス・プログラムでは、現在の日本と同様に夏季の冷房によるピーク電力需要への対応がその中心となると見られる。米国のスマートグリッドでは、夏季のピークシフトと同様にもう一つ、デマンドレスポンスが非常に重要になると考えられている用途がある。それは、今後普及が進むと見られる電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)への充電により発生が見込まれる電力需要だ。
EVやPHEVは大容量の蓄電池を搭載するため、1台で一般家庭の2〜3軒分に匹敵する電力を充電時に消費する。このため、EVやPHEVの所有者が帰宅して夕方頃にいっせいに充電を開始すると、その地域の電力需要が一気に増大して配電網が不安定になる恐れがある。最悪の場合、電力網の周波数が低下して停電する可能性も出てくる。
そういった停電や配電網の不安定化を回避するためには、EVやPHEVの所有者が帰宅後すぐにではなく、人々が寝静まり電力需要が下がる夜遅い時間に充電を開始する必要がある。このような目的のためにEVやPHEVの充電タイマーやスマート充電器を用いると、所有者が充電を行う煩わしさが軽減され、デマンドレスポンスが機能するのである。日本でもEVやPHEVの普及が近い将来見込まれているが、消費者の利便性と電力網の安定性を損なわない自動的なデマンドレスポンスを機能させるための仕組みづくりが求められている。
テクノアソシエーツでは、このようなデマンドレスポンスの事業機会やビジネスモデルといった視点から、米国の企業事例や業界関係者のコメント、各種データを踏まえ、今後のスマートグリッドの普及と周辺ビジネスの事業性を検証し、その調査分析結果を「スマートグリッドのビジネスモデル(北米編)」としてまとめた。本レポート購入者を対象として開催する研究報告セミナーでは、レポートに掲載できなかった市場動向や技術情報、「DistribuTECH 2011」で取材した事例などについても紹介する。
(大場淳一=テクノアソシエーツ)
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