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LGのミシガン州電池セル工場は、販売が原因で生産開始に至っておらず 大規模工場が未稼働でも本業の利益は潤沢
[2013/01/24]
韓国LG化学は、電池事業において、北米・欧州・アジアの3拠点で電気自動車(EV)45万台分のリチウムイオン電池(LIB)の生産拠点を構築している。焦点となる供給価格でも、セル価格で1kWh 350〜400米ドルと公表するなど、同社の電池事業は順調にも見えていた。しかし、足元では、米国政府の肝入りで始まった米国ミシガン工場は、General Motors(GM)の 「Volt(ボルト)」の販売不振が原因で少なくとも2012年9月末の時点では生産開始に至っておらず、その後の目途も立っていない。 そこで、LG化学の電池事業の行方を、北米・欧州市場の製造拠点、財務面から追ってみた。その結果、それ程悲観するものでもないことがわかった。 米・欧・アジアの3拠点でEV45万台分の生産拠点を構築 米国ではエネルギー省が折半で拠出し、LG化学は米ミシガン州Holland工場に3億ドルの電池セルと組み立て工場を建設し、2012年中の操業を予定していた。そして、韓国では2011年に韓国忠清北道にEV10万台分の梧倉工場を稼働させ、さらに第2工場と第3工場の建設を予定している(図1)。1,400億円を投じて米韓で工場を増設することにより、LIBの生産規模を2013年までにEV35万台分へ引き上げ世界トップシェアを目指している。電池の供給先もGM「ボルト」をはじめ、ルノー、ボルボ、現代、起亜、フォード(EV)など9社への供給が決まっており、同社の電池事業の青写真は順調にも感じられていた。 動いているのは韓国1工場のみ GMもボルト向け製造関連だけで11億ドル以上の規模で量産工場を建設・稼働させているものの、LG化学のミシガン州の電池工場はボルトの販売不振が原因でいまだ生産開始に至っていない。工場建設はすでに終了しているが、客先メーカーの販売停滞により米国工場ではいまだ電池を一つも生産しておらず、多くの作業員は1週間/月のペースで一時帰休状態となっている。現在生産中のボルトは、少なくとも2012年10月時点では全量、韓国工場製の電池を使用している。同様にルノーのFlins工場の敷地で生産を予定していたEV10万台分の電池工場の建設計画は、EV販売や開発遅延などのつまずきで見直しとなった。そのため、LG化学は、ルノー、CEA(仏原子力・代替エネルギー庁)との三者共同で、次世代電池を対象に電極をはじめとする主要部材の開発・製造まで拡大する方針に変更したが、現在のところ詳細未定の状態である。 GM「Volt」とルノー「ZOE」に期待 ただし、LG化学の電池事業については今後期待される面もある。一つは2012年後半から北米でのボルトの月間販売が伸びている点である。現在、月産3,000台近くまで成長してきたボルトが、待望の月産5,000台(年産6万台)も見えており、製造ラインがフル操業となりつつある。もう一つは、ルノーが予定している戦略EV車「ZOE」である。この車の最大の特徴は価格である。年産15万台体制を敷き、2013年春にも市場投入される予定で、両者は今後のEV市場を占う重要なポイントとなる。(詳細は、「製造戦略から見たHV・PHV・EV動向と今後」参照) LG化学は儲かっている? これだけの大型工場を建設した後、米国では生産すらしていないLG化学の電池事業に対し、「今後、大丈夫なのだろうか?」と疑問に思えてくるのも当然である。なかなか出口が見えそうにない中で、筆者の答えは、「大丈夫。なぜならLG化学は儲かっている」 LG化学の過去3年の業績推移を見てみると、収益の規模と収益率の良さが分かる(図2)。2011年度では、実質LGグループ全体の決算を一人で支えている程である。2011年度決算には、「一部稼働と建設中の韓国工場」、「建設したが全く稼働していない米国工場」というこの2つの事業を抱えても税引き前利益で2,200億円以上もの利益を出しているのである。
業績の内容を他社と比較すると、総合化学では国内最大手よりも収益が高く、世界を代表するTier1企業にも勝っている(図3)。開発資金と生産の事業継続性の観点から、電池事業で最大の競合先となるトヨタ(プライムアースEVエナジー)や日産(オートモーティブエナジーサプライ)と比較しても、収益面においてはそれほど大きな違いは感じられない。事業継続力は十分にある(図4)。
テクノアソシエーツでは、このような電池市場を含めた電動コア部品動向、欧州、中国、東南アジア市場の電動車市場と製造戦略、完成車メーカーの製造戦略、Tier1を始めとした部品メーカー戦略、といった四つの視点から、調査レポート「製造戦略から見たHV・PHV・EV動向 〜部品メーカーの電動車戦略とOEMの調達・内製化はどこまですすんでいるのか?」としてまとめ、電動化によって大きく変わる自動車産業を分析・展望している。
(テクノアソシエーツ=木村 勲)
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