株式会社テクノアソシエーツ

コラム・イベント

2015.10.19

目指すのは、レーザー光を自在に操り思い通りの加工ができる技術
「第2回 コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)シンポジウム」研究報告

 「第2回 コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)シンポジウム」が、2015年8月21日、東京大学弥生講堂 一条ホールで開催された。レーザー光が、将来の生産システムに新たな価値をもたらし、様々な産業分野での応用が期待される中、シンポジウム後半の研究報告では、ICCPTの参画企業である三菱電機、東レ、ギガフォトンが各研究テーマについて報告した。また、レーザー光を自在に操り、思い通りの加工ができる技術の確立に向けて重要となる、レーザー光によって物質が加工される過程をシミュレーションで再現する研究や、加工条件に合った特性のレーザー光源を要求に応じて作り出せる技術の研究の現状について、それぞれ東京大学の研究者が報告した。

 シンポジウムの研究報告では、冒頭でICCPTのプロジェクトサブリーダーである三菱電機 産業メカトロニクス事業部 技師長の安井公治氏が、ICCPTで実現を目指している、レーザー光による加工技術だけで思い通りの製品を加工できる生産システムの、産業界に与えるインパクトと実現に向けた筋道を説明した。
 現在、新しい時代のものづくり基盤につながる技術開発が世界中で進められている。ICCPTでは、発注システム(ERP)で受け付けたCADデータに基づき、CPSで最適な加工条件を決め、レーザー光だけで製品を加工できる生産システムの構築を目指している。
 実現に欠かせない要素技術として、半導体デバイスの微細加工に用いるEUV露光用光源、飛行機や電気自動車などの軽量化に寄与する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の加工技術などを開発している。EUV露光は、CPSを構成する高性能な半導体デバイスの製造に必要になる。そこで用いる最先端の光源の開発を通じて、レーザー光の可能性を広げる新たな知見を得ることができる。CFRPの加工技術は、構築を目指す生産システムの加工プロセスの中に組み込まれるべき機能である。加工条件を的確に設定するためのシミュレーション技術や、熱によって変質することなく加工できるレーザー光源などの技術開発も進めている。
 研究開発している技術は、困難なチャレンジを伴うものばかりだ。産学連携で大きな成果を挙げているドイツや台湾の研究開発体制から学び、企業、大学、政府、研究機関が協力して研究に当たる「Under One Roof」の強みを生かして、レーザー光によるものづくりの革新「フォトンイノベーション」に挑んでいる。

三菱電機 産業メカトロニクス事業部 技師長 安井公治 氏
三菱電機 産業メカトロニクス事業部 技師長
安井公治 氏
東レ 複合材料研究所長 遠藤真 氏
東レ 複合材料研究所長
遠藤真 氏

加工現象を把握し、CFRPの応用を拡大

 難加工材であるCFRPの加工技術および改質技術の研究開発の方向性について、東レ 複合材料研究所長の遠藤真氏が報告した。
 航空機や自動車を構成する部品の材料として、CFRPが使われるようになった。金属材料に比べて、部品を軽く、強くできる優れた特性を有する材料であるが、加工性が金属材料と異なるという課題を抱えている。東レは、材料の開発や生産だけではなく、加工法も含めたトータルな知見を持って製品開発や用途開拓を進める必要があると考えている。CFRPのレーザー光による加工メカニズムを理解し、効果的な加工条件の設定に利用できれば、CFRPの応用分野はさらに拡大すると期待している。
 また、CFRPを構成している炭素繊維は欠陥を多く含み、結晶構造はそれほど均一ではない。例えば、ナノオーダーの不均一な炭素繊維表面構造を理解し、欠陥を何らかの方法でなくすことができれば、さらに特性を向上させることができる。ただし、炭素繊維は化学的に安定なため、炭化構造形成後の改質は容易ではない。こうした改質困難な材料でも、レーザー光ならば改質できる可能性があると期待している。

レーザー光で思い通りの加工をするための指針を示す

 レーザー光によって物質が加工される過程を、シミュレーションで再現することの意義と研究の現状、今後の方向性について、東京大学大学院工学系研究科 原子力国際専攻の石川顕一教授が報告した。
 レーザー光で物質を加工する過程をシミュレーションによって再現できれば、カンや経験に頼らない加工ができるようになる。また、これまで最適だと思っていた条件よりもよい加工条件が見つかったり、加工できなかった素材や形状の材料を加工したりできるかもしれない。加工法を探索するコストと時間も、当然削減できる。新しい光源を探索し、短パルスで電子のみを操作し、熱によるダメージ無しで加工できるようにもなる。材料を、電子とか原子のスケールで加工する時代が訪れる。
 シミュレーションを加工条件を探る指針とするためには、媒質中でのレーザー光の伝わり方、物質に与える影響、加工時の原子や電子の放出の、3つの過程をそれぞれ再現し、無理なくつなげる必要がある。このうち、レーザーの伝わり方に関しては、正確に再現する手法がほぼ確立されている。フェムト秒スケールの短パルスの伝搬も再現できる。
 物質に与える影響も徐々に再現できるようになってきた。例えば、グラフェンにテラヘルツ光を当てると高調波が発生することを、実験で実証される前に予見できるようにもなっている。第一原理計算によって、原子がイオン化していく様子なども再現できる。ただし、固体を対象にした波動関数理論は確立されていない。ここには大きなチャレンジが残っている。
 加工時の原子や電子の放出の過程の再現についても着実に進んでいる。ここは、常行研究リーダーのグループが成果を挙げている。今後は、3つの過程をいかにつなげて、一連の加工現象として再現していくのかについても挑む必要があると考えている。

東京大学 大学院工学系研究科 原子力国際専攻 石川顕一 教授
東京大学 大学院工学系研究科 原子力国際専攻
石川顕一 教授
ギガフォトン 代表取締役副社長兼CTO 溝口計 氏
ギガフォトン 代表取締役副社長兼CTO
溝口計 氏

EUV露光の実現に向けた道筋は見えた

 半導体デバイスをより微細に加工するために必要なEUV露光向け光源技術の開発状況について、ギガフォトン 代表取締役副社長兼CTOの溝口計氏が報告した。
 CPSのようなコンピューターのさらなる進化には、より微細な半導体デバイスを形成するための露光技術が欠かせない。現状のArFエキシマレーザーでの露光は、一つのパターンを形成するのに繰り返し露光しなければならないため、製造コストを削減できない。解決策として、13.6nmと波長の短いEUV光源を使った露光技術の実現が期待されている。一方、リソグラフィで完成された_ArFエキシマレーザー光源と固体レーザー技術を組み合わせたハイブリッドエキシマレーザー光源の材料加工への可能性についても言及があった。
 EUV露光装置を量産工程で利用するためには、出力を250Wまで高めることが求められる。この12年間の研究の成果で、10ピコ秒の短パルスレーザー光をスズの液滴に当てると、細かく砕けて、CO2レーザー光の吸収率が上がり、高出力が得られることが分かった。この成果を生かして、2015年4月の時点では出力が約100Wまで達している。現在、250W出力を得られる装置を製作中である。
 工場での運用に向けた連続運転の試験も実施しており、実発光時間で77時間の連続運転に成功している。そして、ICCPTの研究開発体制を利用して、連続運転後のモリブデンとシリコンの多層膜を載せた集光ミラーにはスズが堆積し、EUV光の集光効率が落ちてしまう問題の解決について議論を進めている。これをリサイクル利用する時、ミラーの反射率や表面状態の計測に、SOL光を利用しなければならない。現在ICCPTにおいて、工場の中での計測に利用できる、高次高調波を利用した小型光源の研究開発を進めている。

加工に利用できるレーザー光をもっと多様に

 加工条件に合った特性のレーザー光源を、要求に応じて作り出せる技術の研究状況を、東京大学 物性研究所の小林洋平准教授が報告した。
 レーザーのパラメータには、波長、出力、パルス幅など様々なものがある。現在利用されている、切断や溶接などのレーザー加工では、赤外領域の波長を中心に、パラメータの一部領域を利用しているに過ぎない。加工への応用の可能性を秘めた未踏の領域は、広く残されている。レーザー光源の技術が進歩し、ピコ秒やフェムト秒、そしてアト秒の短パルスが生成できるようになった。また、EUV光源のように波長の短い光源の開発も進んでいる。こうした多様なパラメータのレーザー光を利用すると、これまでとは違った価値を持った加工ができるようになる可能性がある。
 加工の内容や加工対象に応じて、最適なパラメータのレーザー光を生成できる光源を自在に作り出すことが、私たちの役割である。高次高調波の技術を使ったEUV検査用光源もその一つである。また、紫外領域や短パルスを使った、エネルギー効率に優れ、微細な加工ができる光源も開発している。材料を熱で溶かして加工するのではなく、材料の原子を結びつけている結合を切って加工する、非熱加工技術に利用できる光源も研究している。

東京大学 物性研究所 小林洋平 准教授
東京大学 物性研究所
小林洋平 准教授
東京大学 大学院理学系研究科物理学専攻 ICCPT研究リーダー 常行真司 教授
東京大学 大学院理学系研究科物理学専攻
ICCPT研究リーダー 常行真司 教授

レーザー光を使った思い通りの加工は夢物語ではなくなった

 最後に、新研究リーダーに就任した東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 の常行真司教授が、今回のシンポジウムでの報告全体を総括した。
 ICCPTは、世の中の動きに即応し、産業の伸びしろを生み出すための原動力となる学理を追求していく。レーザー光の研究を通じてその理念を具現化するため、レーザー光だけで製品や部品を加工できる生産システム、そこに組み込む要素技術としてのCPSや非熱加工技術などの実現を目指していく。
 レーザー光の照射によって、物質表面でどのような現象が起きるのか、その過程を第一原理シミュレーションで再現することは、決して夢物語ではなくなっている。レーザー光を自在に操り、思い通りの加工ができる技術を目指していく。実現に向けて、解決すべき課題は多い。大学と研究機関、産業界の知見を結集して研究を進め、社会実装まで持って行きたいと考えている。

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