株式会社テクノアソシエーツ

コラム・イベント

2015.10.15

フラウンホーファーが見るIndustry4.0でのレーザー加工の可能性と
イノベーション創出への仕組みづくり
「第2回 コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)シンポジウム」招待講演

 「第2回 コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)シンポジウム」が、2015年8月21日、東京大学弥生講堂 一条ホールで開催された。文部科学省の研究開発支援プログラム「COI STREAM」の拠点の一つとして活動を開始してから2年が経過。その間の活動状況、研究の成果、今後の方向性について、各研究テーマの責任者が報告した。加えて今回は、欧州最大の応用研究機関、ドイツのフラウンホーファー研究機構 レーザー技術研究所(ILT) 所長で、アーヘン工科大学 教授のReinhart Poprawe氏が招待され、“Industry 4.0, Digital Production and Innovation Structures”と題し、講演を行った。ドイツでのレーザー研究の現況と産学連携の様子を聞く貴重な機会となった。

 ものづくりは、200年前の蒸気を動力源とした第1の革命、電気エネルギーを活用した第2の革命、エレクトロニクスによる第3の革命を経て、段階的に高度化してきた。そして現在、第4の革命として、現実世界と仮想空間を結びつけた新しいものづくりの仕組みが、産業界の姿を大きく変えつつある。これが「Industry4.0」である。
 Industry4.0では、設計データや生産計画など工場の中の情報だけで製品を生産するのではなく、消費者のニーズ、販売状況、在庫状況など工場外の動きに呼応して、ダイナミックに問題を最適化していく。ロットサイズが1個の個別生産にも対応する。実現には、市場の動きや企業の事業状況などの情報を基に、加工装置や製造装置の最適な動作条件を自ら考える生産システム「Cyber Physical System(CPS)」の構築が欠かせない。

光には他の加工手法では代えられない魅力がある

フラウンホーファー研究機構 レーザー技術研究所(ILT) 所長 兼 アーヘン工科大学 教授 Reinhart Poprawe氏 フラウンホーファー研究機構 レーザー技術研究所(ILT) 所長 兼 アーヘン工科大学 教授
Reinhart Poprawe氏

 こうしたIndustry4.0の中で、レーザー光を利用した加工技術は、他に代わるものがない稀有で有用な特性を備えている。光は、質量のないエネルギーである。このため加工に用いるエネルギーとして、変換効率と出力密度の高さ、高速応答性、CADと直結して製品を作れる高い制御性といった点で、機械的な加工手法である切削加工などより圧倒的に勝っている。
 通常、製品やそれを構成する部品の形状が複雑化すると、製造コストが高くなってしまう。ところが、レーザー光を使った加工では、形が複雑であろうと単純であろうと、大きさと加工数量が同じならばコストは一定である。また、レーザーカッターなどで部品を切り出す場合、1個だけ切り出しても、1000個を切り出しても、1個当たりのコストは全く同じである。こうしたレーザー光を使った加工の特性は、形が単純なものを大量に作る場合には欠点になったが、複雑なものを少量作る場合には、代え難い長所になる。
 しかも、レーザー光による加工技術は伸び盛りであり、伸びしろも大きい。この5年から8年の間、生産性の向上によって、コストが大幅に下がった。自動車部品の製造では、軽量化は加工コスト上昇の要因になっていたが、レーザー光での加工ならば、むしろ低コスト化する可能性が出てきている。使用する材料の量が少なくて済むからだ。

3Dプリンタでの生産が当たり前になる時代が近づいている

 フラウンホーファー研究機構 レーザー研究所(ILT)では、金属を加工対象にした3Dプリンティング技術の特許を、1997年に取得した。金属粉をノズルから噴出し、レーザー光で溶融して1層ずつ積層して、様々な形状の部品を作り上げる、「Additive Manufacturing」と呼ぶ技術である。特許は現在も有効であり、自動車の部品や歯科治療に使うインプラントが3Dプリンティング技術で作られているが、すべてこの特許を活用している。
 複雑な形状のジェットエンジンのタービンブレードも、3Dプリンティング技術ならば、たった180分で作ることができる。切削加工で同様のタービンを作る場合、180時間掛かっていたのだから、加工効率が60倍に向上したことになる。出来上がりの表面が粗いため、仕上げプロセスを追加する必要があるが、それでも最初から切削加工するのに比べれば、随分と高効率化する。原材料の使用量も減る。
 さらに、レーザー光は、表面加工にも利用可能である。円形のブレーキディスクにタングステン・カーバイドをコーティングする場合には、1分当たり200mの速度でスパイラル状にコーティングしていく。ILTでは、こうした技術を駆使し、BMW社と共同で自動車の中の複雑な部品18個を3Dプリンティングで作る取り組みを進めている。
 加工時間をさらに短縮するための技術開発も進めている。現在の技術では、1kgのスチール部品を、形状を問わず約1時間で形成できる。ILTからスピンオフした企業が、これを2倍もしくは4倍に改善すべく取り組んでいる。複数のレーザーを並列に並べ、これをスキャンして、部品を作りたい部分にだけレーザー光を照射するシステムを想定している。現在試している5並列の試作機では、1kg当たり約1分で加工できる。

産業界の課題とレーザー技術の高度化をつなぐネットワーク

 ILTと同じくドイツのアーヘン市内にあるアーヘン工科大学は、単なる大学ではなく、フラウンホーファーと密接に関係した産学連携の場でもある。ここでは、次世代の生産技術の開発を通じて、社会に貢献している。
 エネルギーや自動車、医療など個々の産業界が抱える課題は多様で、とても具体的である。一方、レーザー技術を高度化するためには、光源の制御や物性の理解など、別の視点で解決すべき具体的な課題が多くある。レーザー技術は、様々な産業に横串的に応用される。しかし、産業界の課題とレーザー技術の高度化に向けた課題の間には、隔たりがあり、両者をどのように結びつけていくべきかが、常に問題になる。
 ILTでは、両者を結びつけるためには、多種多様な分野の研究者同士をつなぐネットワークを構築することがとても重要になると考えている。課題を解決するためのプロジェクトを発足し、ここに解決に必要な知見を持った立場と視座が異なる研究者が集まり、協力して解を探っていける仕組みである。
 こうした仕組みは、大学での学理にもよい効果を及ぼす。過去の大学では、狭い分野で深く学理を追求していた。現在は、大学、ILT、産業界の研究者によるネットワークを通じて視点を交わし合うことで、広い視野から学理を追求するアプローチが取れるようになった。

多分野の研究者が同じ建物に集う

写真●フラウンホーファー研究機構 レーザー技術研究所(ILT) 所長 兼 アーヘン工科大学 教授 Reinhart Poprawe氏

 現在、ドイツ連邦教育研究省(BMBF)の研究プロジェクトは、メガトレンドに沿って探求すべき研究テーマを6つのクラスターに分け、持続可能な研究や技術開発に、大学のキャンパス単位で取り組んでいる。アーヘン工科大学でのフォトニクスクラスターのプロジェクトもその一つである。これまで国レベルの研究プロジェクトでは、具体性の高いテーマを設定し、約3年間と短い期間で実施していた。現在は、より長い期間の資金を確保し、産業界の力を組み込んで、戦略的に新たな革新を生み出していくかたちに変わった。
 アーヘン工科大学のキャンパス内にあるイノベーションセンターでは、同じ建物に、4つの大学とILTから400人、様々な企業から200人の研究者が集まって、レーザー光に関連した基礎研究と応用技術開発を進めている。
 また、ACAM Aachen Center for Additive Manufacturing GmbHという企業を立ち上げ、ILTで生まれた成果を産業界に移管するプラットフォームとして利用している。現在、35社がこの会社と契約。年間1万ユーロの会費で、コンソーシアム研究への参加、年間報告の取得、開発資産の共有ができる。

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