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コラム・イベント

2015.02.03

健康長寿社会の実現へ、産官学が業界・大学の枠を超えて議論
第2回「健康長寿ループの会」開催

 去る12月11日、東京大学・小柴ホールで「第2回健康長寿ループの会」が開催された。同会は、東大COI拠点「若者と共存共栄する持続可能な健康長寿社会を目指す」が企画するシンポジウムで、健康・医療研究に関わる多くの産官学のステークホルダーが業界、大学の枠を越えて集まり、健康長寿社会の実現への課題解決に向けた情報交流の場となっている。前回の6月に引き続き開催された。COI拠点活動とは、文部科学省が推進する「革新的イノベーション創出プログラム」のことで、東大の本プロジェクトを含む12件のCOI拠点事業が採択されている。この日も、産官学の代表による基調講演のほか、東大、弘前大学、川崎市振興財団、京都大学の各COI拠点のリーダーが活動報告を行い、集まった健康・医療に関わる関係者などと活発な議論が交わされた。

会場写真

厚労省主導で企業や地域ぐるみで取り組む「スマート・ライフ・プロジェクト」

厚生労働省健康局がん対策・健康推進課 古賀政史 氏 厚生労働省健康局がん対策・健康推進課
古賀政史 氏

 冒頭の基調講演では、まず、厚生労働省健康局がん対策・健康推進課の古賀政史氏が登壇し、「健康寿命を伸ばす」をスローガンにした厚労省主導の国民運動「スマート・ライフ・プロジェクト」について紹介した。
 「スマート・ライフ・プロジェクト」は、『適度な運動』、『適切な食生活』、『禁煙』の3つのアクションと+1『健診・検診の受診』を啓蒙し、健康寿命を伸ばしていくための活動のこと。例えば、『適度な運動』では通勤時の早歩きなど毎日10分程度の運動、『適切な食生活』では1日プラス70gの野菜の摂取を促す。『禁煙』では特に女性の出産や美容への影響など、その健康への影響を情報提供している。また、『健診・検診の受診』ではスマートライフ応援団としてアイドルグループ乃木坂46による広報活動を行っている。
 「スマート・ライフ・プロジェクト」の大きな特徴として、個人だけでなく、企業や団体が活動に参画し、企業や地域ぐるみで健康推進活動に取り組むことが挙げられる。また、通勤や家事など日常のごく当たり前のことを健康づくりへと結びつける活動に重点を置いている。厚労省では、参加企業・団体の取り組みに対し、「生活習慣予防分野」、「介護予防・高齢者生活支援分野」での表彰も行っている。
 古賀氏は、「現在の参加企業は2,334社。目標の3,000社はクリアできそうだが、大企業の参加がまだ少ない。多くの企業に参加していただき活動を盛り上げてほしい」と話す。

ヘルスケア情報の統合プラットフォームを開発
ITを活用した生活習慣改善プログラムも提供

日立製作所 ヘルスケア事業本部長 荒木由季子 氏 日立製作所 ヘルスケア事業本部長
荒木由季子 氏

 続いて、日立製作所ヘルスケア事業本部長の荒木由季子氏が、同社ヘルスケアビジネスの取り組みについて講演した。  同社では、IT基盤技術を軸に「ヘルスケアデータ統合プラットフォーム」の開発を進めている。このプラットフォームは、画像や文書などのヘルスケア情報をデータセンターに置いて統合的に保管。臨床データの横断検索や時系列検索表示などができ、複数の医療機関間でのデータ共有や連携を可能にする。同社では、2013年10月から英国マンチェスターのサルフォード地区においてNHS GM(マンチェスター地域国民保健サービス)と共同で2年間にわたる実証実験を行っている。この実験では、地域医療機関間のデータ共有だけでなく、糖尿病予備群に対しITを活用した生活習慣改善プログラムの提供など、予防医療への活用も行なっているという。
 この生活習慣改善プログラムのベースとなっているのが、同社が企業などに提供しているクラウド型支援サービス「はらすまダイエット」だ。これは、パソコンやモバイルツールなどを利用した健康指導プログラムで、参加者(社員)には日常で簡単にできる100kcalの減量メニューが示されたカード(約300種)が提供される。参加者はそのメニューに基づいて日々の記録(体重、歩数、血圧、腹囲など)を入力し、指導者(産業医など)は入力データに従って適切な減量指導やアドバイスを行う。参加者の減量具合によって適切なコメントを自動作成する機能があるため、指導者側の負担が少ない。個別に親身な文章を添えることで社員の継続意欲を高めることもできる。日立では企業内に健康指導者がいない場合などにも対応し、指導機能を代行するサービスも提供している。
 また、同社は東大COIにおいて、超音波技術を軸に「在宅・専門医によるリモート診断」、「超低侵襲治療による早期癌日帰り治療」、「超音波筋肉年齢推定技術」の研究開発を進めている。スパコンを用いたシミュレーション解析技術を開発し、「誰でも、どこでも」できる診断システムを構築する。超低侵襲治療では、特に年間5万人が発症するとされる女性の乳がん検診・治療分野で、ロボットや3D画像処理などを融合した「早期発見、優しい治療法」の開発を目標にしている。

「モバイルヘルスは、日常生体データを大量かつ正確に収集して医療機関の臨床情報と結びつけることが重要」(東大・大江教授)

東京大学大学院医学系研究科 大江和彦 教授 東京大学大学院医学系研究科
大江和彦 教授

 基調講演の最後は、東京大学大学院医学系研究科・大江和彦教授が登壇した。
 大江教授は、これからの医療を考える上で重要なテーマの1つに、NFC(Near Field Communication)ツールを使った日常生活での健康情報の収集と活用、いわゆるモバイルヘルスの利活用を挙げる。
 東大医学系研究科の健康空間情報学講座が行った、モバイル機器を利用した糖尿病患者向けの自己管理支援システム(DialBetics)の実験で、2型糖尿病患者54名を「支援あり」「支援なし」の2グループに分けて検証したところ、ヘモグロビンA1c、空腹時血糖値、BMI(肥満度)いずれの数値も、「支援あり」グループに有意な改善が見られたという。
 大江教授は「モバイルヘルスが本当に医療活動に貢献しているかどうか、そのためには綿密な検証が必要」と前置きした上で、「日常生活での健康に関わるデータを大量かつ正確に収集し、それを医療機関の臨床情報と結びつけることが重要」と指摘した。それらデータを蓄積し詳細に解析できれば、「将来的には一人ひとりのパーソナルな健康予測モデルを構築できるだろう」と期待する。
 一方、医療情報の活用において特に医療機関側の問題として、電子カルテに代表される臨床情報の電子データ統合化の遅れ、データの標準化などを挙げる。医療情報のデータベース化においては個人情報保護の取り扱いが重要なテーマとなってくる。その点について大江教授は、「最低1つは個人の臨床履歴が紐付けできる『共通番号』は必須」とし、かつ「個人の意志で、臨床履歴を分けて管理できる複数番号を選択できるようにすべき」と提言する。また、マイナンバー(社会保障・税番号制度)を医療情報でも共有すべきか否か、という議論については医療情報の高い機微生から「一括で運用するのはきわめて危険」という立場を示した。

弘前大、京都大、東大、川崎市振興財団、各COI拠点が活動状況を報告
「COI拠点間でも連携を図りオープンイノベーションを推進」

 基調講演に続いて、弘前大学、京都大学、川崎市振興財団、東京大学の各COI拠点の活動状況を紹介した。いずれもCOI STREAMのビジョン1「少子高齢化先進国としての持続性確保」に属する。

 弘前大学では、10年ほど前から市内岩木地区で「岩木健康プロジェクト」として住民延べ11,000名に対して詳細な健康情報の収集しており、そのデータに基づいた健康指導を行っている。この健診ビッグデータの解析と脳科学研究を融合することで、画期的な疾患予兆発見の仕組みと予防法を開発しようというのが、弘前大学が拠点のCOI「革新的『健やか力』創造拠点」のテーマだ。弘前大学COI戦略統括の村下公一教授は「青森県は平均寿命で最下位。日本一の短命県である青森から世界に向けて画期的なモデルを発信したい」という。具体的には「予兆発見アルゴリズム」、「健診センター・医療機関連携システム」、「予兆発見アプリケーション」、「予防法モデル」の研究・開発を進めている。

 人が生涯にわたって尊厳を保ち、社会の一員として充実感を得ながら活動できる社会――。それを京大COIでは「しなやかほっこり社会」と呼ぶ。その実現のため研究が進められている分野は「コードレス電送などの高度ICT技術」、「センサーネットワーク」、「予防・先制医療」、「先端医療」。拠点名「活力ある生涯のためのLasy5Xイノベーション拠点」に示された「Last5X」は、これらのキー・テクノロジーの研究開発によって「家庭での壁から5mのコードレス化」、「屋外における50mから5Kmの見守り」、「遠く500km離れて暮らす家族・仲間との日常の共有」という目標を示したもの。同拠点の機構長、パナソニック常務取締役の野村剛氏は「イノベーションを研究のみで終わらせず、大学、企業、自治体などが一丸となって連携し、きちんと社会実装まで持っていくことが重要」と話す。

弘前大学COI戦略統括 村下公一 教授
弘前大学COI戦略統括
村下公一 教授
京都大学COI機構長 パナソニック常務取締役・野村剛 氏
京都大学COI機構長
パナソニック常務取締役・野村剛 氏

 「まるでSFのような話に聞こえるかもしれません」――。そう前置きして、「体内病院の実現」について紹介したのは、「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション(COINS)拠点」の川崎市産業振興財団COINS研究推進機構研究推進統括・岩崎廣和氏。COINS(コインズ)は、Center of Open Innovation Network for Smart Healthの略称。COINSが最終的なゴールとしているのはスマートナノマシンの開発。ウィルスサイズの微小なナノマシンが体内を循環し、人体の必要な場所で必要な時に的確な治療を行うというものだ。この夢のような技術に向けCOINSでは「難治がんを標的としたナノマシン」、「採血不要の在宅がん診断システム」など6つの研究を進めている。川崎市では現在、多摩川沿いの殿町地区に学術研究拠点キングスカイフロントの整備を進めており、そこにCOINSの中核研究拠点「ものづくり医療ナノイノベーションセンターiCON」が2015年3月に開設される。羽田へのアクセス、京浜臨海部の企業集積などを活かし、国内外の企業・研究機関との積極的な連携を図っていくという。

 最後に、東京大学COI拠点「若者と共存共栄する持続可能な健康長寿社会を目指す」の池浦富久機構長が、同拠点のビジョンである「自分で守る健康社会」を実現するための取り組みを紹介した(関連記事)。
 現在、「低コスト創薬」、「低侵襲診断・治療」、「健康・医療データプラットフォーム」の3グループを設け、社会実装を目指した研究開発が進めている。池浦氏は「大学シーズを十分活用した産官学連携による市場創成が重要」だとし、中でも大学の果たすべき役割として「企業が取り組みにくい事業リスクの高い技術シーズへの取り組み」を挙げる。
 そうした中、大学における基礎研究を市場展開に結びつける拠点として、東大病院に併設される「国際科学イノベーション拠点総括棟」(2016年2月竣工予定)を紹介。大学内の医・工・薬・理系研究科の枠を超えた連携のみならず、企業、規制当局も一体となり、特に「製品化と市場創成の間」にある「第三の死の谷」超えるための活発な議論・検討の場にしていきたいと言う。
 また、池浦氏はオープンイノベーションという視点からCOI拠点間の連携の重要性についても触れ、「健康長寿ループの会で拠点の枠を超えた意見・情報交換を行っていきたい」と同会の今後の活動に期待を示した。

川崎市産業振興財団COINS 研究推進機構研究推進統括・岩崎廣和 氏
川崎市産業振興財団COINS
研究推進機構研究推進統括・岩崎廣和 氏
東京大学COI機構長 池浦富久 氏
東京大学COI機構長
池浦富久 氏

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