株式会社テクノアソシエーツ

健康・医療イノベーション

2015.03.10

医療、ゲノム、健康情報の標準化で横断的な解析の基盤作り
健康、未病維持社会の推進を図る
東京大学 大学院医学系研究科 教授 大江和彦 氏

 文部科学省と科学技術振興機構(JST)主導の「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」では、様々な研究開発が進んでいる。その一つ、「自分で守る健康社会」の拠点となっている東京大学では、理学系の「創薬プロセスイノベーション」、医学系の「健康医療ICTオールジャパン標準化」、工学系の「ユビキタス予防・診断・治療システム」の研究開発を「三本の矢」として協奏させ、健康長寿ループの実現を図る。
 この中で「健康医療ICTオールジャパン標準化」を担当する同大学院医学系研究科医療情報経済学分野の大江和彦教授(写真)は、これまで電子カルテシステムや医療用語の標準化など、医療における情報システムの標準化の研究を進めてきた。大江教授にCOIプロジェクトにおける研究内容と、今後の目標を伺った。

——今回の東京大学COI研究開発戦略における大江先生の研究の全体像を教えてください。

写真●東京大学 大学院医学系研究科 教授 大江和彦 氏 写真●東京大学 大学院医学系研究科 教授 大江和彦 氏

 大江 プロジェクトの中では、医療・健康データベースの基盤構築を担っています。その全体像は図1のようなものです。医療機関にある診療情報、個人の遺伝情報(ゲノム情報)、日常生活で集められる健康情報など、別々の場所にある大量の健康・医療情報をそれぞれ標準化した上で、ストレージ(記憶装置)に蓄積し、各データを連結して解析するためのICT(情報通信技術)基盤を構築することで、健康・未病を維持する社会づくりにつなげようとしています。
 これまで、医療機関、研究機関、家庭など、それぞれの場で蓄積されている情報はバラバラに存在し、それらを有効活用できていませんでした。医療機関にある臨床情報は研究目的に十分に生かせず、大学や研究機関にあるゲノム情報はすぐに臨床情報とリンクさせるのが難しく、生活習慣や健康情報は健診センターや個人の生活空間に埋もれることが多かったからです。しかし、これらのデータを結合して解析できれば、今まで以上に健康維持に役立てられます。多くの病気の原因は一つではありません。遺伝的な素因、体質、子供のころからの生活習慣、食事など様々な要因が重なり合い、ある確率で発症すると考えられます。そのため、病気になってからの臨床情報だけでなく、健康な時も含めた全てのデータを関連づけて解析することが発症メカニズムの解明や、個人の生活習慣による発症予測などにつながる可能性があるのです。

図1●東大COIが目指す、医療・健康データベース基盤構築の全体像
図1●東大COIが目指す、医療・健康データベース基盤構築の全体像

——現在のプロジェクトではどのようなことが進行していますか。

 大江 まず、既にCOIプロジェクト発足以前から進めてきた臨床情報の基盤整備を行っています。現在、医療機関における電子カルテの導入率は約25%。徐々にその数は増えていますが、電子カルテ情報は長年標準化されてこなかったため、情報を共有できないという課題がありました。それは、電子カルテ開発で各社がそれぞれのデータベースシステムを構築していったために生じたことです。ベンダーごとに規格が異なるのはもちろんのこと、同じベンダーであっても医療機関により検査項目などに割り当てるコードなどが異なるケースも少なくありません。
 そのような背景から、膨大な臨床情報を様々な場面で活用できるデータベースにするため、各医療機関の診療情報を厚生労働省の規格である「SS-MIX2」に書き換えて標準化し、各施設内のSS-MIX2ストレージに蓄積できる仕組みを構築しています(図2)。SS-MIX2ストレージのデータであれば、他施設のデータとも共有化できます。現在、全国約350施設でこの仕組みの導入が進み、2〜3年後には1000施設を超える見込みです。さらにこれを中小病院にも広げて基盤整備の加速化を図るため、導入により何ができるのか、具体的な応用事例を示す予定です。

図2●SS-MIX2標準ストレージとリンクしたパーソナルゲノム情報・臨床情報データベースシステム構築へ
図2●SS-MIX2標準ストレージとリンクしたパーソナルゲノム情報・臨床情報データベースシステム構築へ

——応用事例としてはどのようなことが考えられますか。

 大江 一つは臨床研究への応用です。コホート研究などの臨床研究では複数の施設が参加し、各施設で該当する患者さんのデータなどを抽出してそのデータを解析します。これまで各施設でデータを入力する際、電子カルテ情報をそのまま取り出せないため、研究者が必要な情報を一つ一つ手作業で抽出転記入力していました。それでは手間がかかるばかりでなく、入力ミス等、データの信頼性保証の面から課題が残っています。しかし、SS-MIX2標準ストレージを導入すれば容易にデータを抽出できるため、短時間に低コストで多施設研究ができるようになり、研究の加速につながります。また、患者数が少ない疾患においても研究の推進が期待できます。今までコストや手間が課題で参加を見合わせていた施設が研究に参画しやすくなるため、多くのデータ収集につながり、研究が進む可能性があるからです。また、標準ストレージの基盤整備により、医療機関が患者さんを他施設に紹介する際のデータ提供にも応用できます。

——臨床情報の基盤構築の次のステップは何をする予定ですか。

 大江 次の段階では、個人のゲノム情報について、研究機関などで標準ストレージを開発する予定です。さらに2016年後半には、家庭で測定した血圧や運動量、食事など、様々な日常生活に関する情報や、健診や人間ドックなどの情報など、健康情報の標準化に着手したいと考えています。
 今回のCOIのテーマである健康長寿の実現のためには、ベースとなる健康なときの情報が不可欠です。健康、医療、生活に関するそれぞれのビッグデータを時系列で解析することで、個人ごとの健康予測も可能になります(図3)。そが実現すれば、「そのままの生活習慣を続ければ将来どの時期にどんな病気になる可能性がある」といった具体的な指導や介入としてデータをフィードバックでき、行動変容を促しやすくなります。
 データの共有や解析には、個人情報の取り扱いについての法整備も必要です。そのため、実際に医療・健康データベースの本格的な運用が始まるのは個人情報保護法のグレーゾーンの詳細が固まる予定の2017年以降でしょう。5年後にはこの基盤整備が日の目を見ると期待しています。

図3●健康、医療、生活情報を時系列にビッグデータ解析を行い、個人ごとの健康予測も可能に
図3●健康、医療、生活情報を時系列にビッグデータ解析を行い、個人ごとの健康予測も可能に

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