株式会社テクノアソシエーツ

健康・医療イノベーション

2015.03.09

スマートフォン・サイズの超音波診断装置を家庭やコミュニティに
東京大学 大学院工学系研究科 教授 佐久間一郎 氏

 2013年に始動した、文部科学省と科学技術振興機構(JST)主導の「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」。その研究開発プログラムの一つ、「自分で守る健康社会」の拠点である東京大学では、理学系で「創薬プロセスイノベーション」、医学系で「健康医療ICTオールジャパン標準化」、工学系で「ユビキタス予防・診断・治療システム」に関する研究開発を進めている。それらを「三本の矢」として統合し、「健康長寿ループ」の実現を図るのが同大学のCOIプログラムにおける中長期的な戦略である。
 三本の矢のうち、先端技術開発による「ユビキタス予防・診断・治療システム」の研究を進めるのが、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻で、医療福祉工学開発評価研究センター・センター長の佐久間一郎教授(写真)だ。現在、医学工学融合を推進中の佐久間教授にCOIプロジェクトにおける医工連携の取り組みや今後のビジョンを聞いた。

——現在、東大COIの一環として先生が取り組まれている「ユビキタス予防・診断・治療システム」を構成する医療機器・装置というのは具体的にどのようなものですか?

写真●東京大学 大学院工学系研究科 佐久間一郎 教授 写真●東京大学 大学院工学系研究科 佐久間一郎 教授

 佐久間 この先日本で進む少子高齢化社会において、東大COI「自分で守る健康社会」では、「入院(による治療)を外来に、外来を家庭に、家庭で健康に」を将来の医療環境の方向性として掲げ、その一つのアプローチとして、低侵襲診断・治療技術の開発に取り組んでいます。特に高齢者にとって現在の外科的治療に要する入院日数とそれにかかる医療費を削減するためにも、低侵襲診断・治療は医療分野において今後重要な開発テーマの1つになると考えています。
 「低侵襲診断・治療」といえば内視鏡やカテーテルが有名ですが、現在COIでは国内先進企業と連携し、様々なアプリケーション開発の可能性について研究を進めています。
 例えば、東芝メディカルシステムズはもともと医用画像の技術に優れ、三次元CTでは世界最先端の技術を保有しています。従来、医用画像は主に診断で使われてきましたが、「医用画像の技術をどのように治療に役立てるか」といったことを同社と議論しています。また、超音波診断装置の大手、日立アロカメディカルとは超音波診断装置のコンパクト化について議論しています。最近、医師の往診では聴診器のような感じでコンパクトな超音波装置を持っていくケースも出てきました。超音波診断は、例えばX線のように被曝を伴わないので外に持ち出しやすく、装置のコンパクト化が進めば、非常に実用性の高い低侵襲診断・治療デバイスになります。

——コンパクトで持ち運び可能な超音波診断装置とのことですが、どれ位の大きさなのですか?

 佐久間 現在、画質面でまだ改善の余地がありますが、サイズはスマートフォン位です。プローブは少し大きいですし、病院で使用する超音波装置ほどの正確さは無いですが、ある程度の確度のデータの取得が可能です。
 もともと、病院数の少ない発展途上国で使われるために開発されたもので、先進国のニーズに合わせた応用開発、その先に新たな医療サービスの創出があってもおかしくありません。この事例はリバースイノベーションの良い例だと言われています。病院ほど環境が整っていない所でも、ある程度のデータをきちんと取ることができるとことは重要なことです。家庭での使用を現実的なものにするためには、専門的な技術や知識がなくとも目的とする画像を容易に取得することを可能とするハードウェア、ソフトウェア両面からのさらなる研究開発が必要であり、本拠点ではこの観点からの取り組みを進めています。おそらく、同程度の大きさで家庭でも使える診断装置が出てくるでしょう。

——そういった家庭で使用できるような医療機器のコストはどれ位しょう?

 佐久間 現在、普及している血圧計のように、超音波診断で数万円といった装置はすぐには難しいでしょう。量産されて数が出るようになれば、数十万円といったレベルになると思います。ハイエンド機は数千万円しますから、そこでコストをどう抑えていくか。普通の病院が導入しやすい医療機器の価格は高級外車の価格と同程度といわれています。まず数百万円に抑えることが求められます。

——東大COIにおける医工連携の状況をどのように見ていますか。

 佐久間 まずは研究環境の整備を進めています。医療機器は、やはり患者のベッドの傍で利用されるものであり、システムとして統合する際、臨床に近い状況が必要です。しかし、そのような研究環境はなかなかありません。例えば、開発中の医療機器のテストを実施する場合、いきなり治験を行うことはありません。やはり、動物でテストし、また3Dプリンタなどで制作したモデルを活用するケースもあるでしょう。いかに臨床に近い状況の中でテストできるか。医師にとってみれば、医療機器のベンチマークにもなり、エンジニアリング側にとっては、実際に医師に使ってもらうことで初めて詳細な課題が見えてきます。こうした研究環境がないと機器も良くなっていきません。
 東大では、模擬手術室も備える医工連携の研究拠点の場となる新しい施設(分子ライフイノベーション棟)の建設を進めており、大学という公共財としての場にあるという点で企業側にとっても利用価値があります。

——東大COIによる医工連携の取り組みに対する企業側の姿勢や期待度はどのようなものでしょうか?

 佐久間 医療機器メーカーなど企業も、医工連携などの議論ができる場所が必要だと認識しています。また、その議論を具体的な研究の成果物にしていくフェーズが必要になります。そして、それをより具体的なテーマに落とし込む作業を行っていかなければなりません。そのためには1つの研究室だけではなく複数の研究室がそういった議論に加わっていくということになるでしょう。

——最後に、今後のCOIプロジェクトに対する抱負や期待をお聞かせ下さい。

 佐久間 今後、遠くを見る話と近くを見る話の両方があるべきだと思います。
 例えば、侵襲性が少ない、治療ではなく診断的にできるようなものがあります。そういったものは、作戦を上手く立てて応用開発し、いち早く臨床機に仕上げて世に出していくべきだろうと考えます。それと同時に、治療ということから言えば、将来を見据えた基礎研究開発のようなところも含めてやっていくということが必要です。それらをいくつかのステージに分け、並列に走らせていくということだと思います。それは、必ずしも同じ人がやる必要はありません。
 研究室によっても得意とする分野やステージは異なります。そういったことをうまく調整してやっていければ良いと考えます。企業側も、もし大学が出口ばかり見ていたら、大学には来ないでしょう。やはり、大学の高度な基礎的な解析能力やそういう所を活かした部分に企業側の期待があるのではないでしょうか。基礎と応用、これらのバランスを取ってやっていくことが重要です。
 大学が企業と同じことをやっても、おそらく意味が無いでしょう。一方で、昔の大学のような「象牙の塔」的なことばかりやるのもダメ、そういうことなのだと思います。

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