株式会社テクノアソシエーツ

健康・医療イノベーション

2015.03.05

有機化合物の結晶化制御技術で、「基盤医薬」開発の高度・効率化を実現
「ものづくり」科学・技術によって健康社会の実現に貢献
東京大学 大学院理学系研究科 教授 中村栄一 氏

 2013年に始動した、文部科学省と科学技術振興機構(JST)主導の「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」。その研究開発プログラムの一つ、「自分で守る健康社会」の拠点である東京大学では、理学系で「創薬プロセスイノベーション」、医学系で「健康医療ICTオールジャパン標準化」、工学系で「ユビキタス予防・診断・治療システム」に関する研究開発を進め、それらを「三本の矢」として協奏させることで健康長寿ループの実現を図る戦略を立てている。
 三本の矢のうち、先端技術開発による「創薬プロセスイノベーション」の研究を進めるのが、有機化学分野において卓越した業績を上げ、2009年には紫綬褒章も受賞した、東京大学大学院理学系研究科の中村栄一教授(写真)だ。中村教授にCOIプロジェクトの内容と目指すべきところを伺った。

——今回の東京大学COI研究開発戦略の中での中村先生のミッションを教えてください。

写真●東京大学 大学院理学系研究科 中村栄一 教授 写真●東京大学 大学院理学系研究科 中村栄一 教授

 中村 「自分で守る健康社会」プロジェクトの3つのグループの中では、「創薬プロセスイノベーション」を担っています。私たちの研究室では、有機合成化学による“ものづくり”を基盤に、有機化学を開拓しています。そうした中で2010年から開発を始めたカーボンナノチューブを用いた研究では、有機化合物の結晶化プロセスの基本原理を解明しました。COIではこの基礎科学的成果を基盤医薬品(ジェネリック医薬品)製造のための斬新な技術に結びつけることで、基盤医薬品ビジネスの改革につなげたいと考えています。外国産に代えて「ジャパンスタンダード」の高品質の薬を低廉な価格で国内外の患者さんに届けようとするものです。
 現在販売されている薬も20年も経てばすべて特許が切れ、いわゆるジェネリック医薬品になります。しかし、現在でも効果が確認され、多くの人が使っているこうした薬が沢山あります。アスピリンが好例ですね。我々は「ジェネリック医薬品」というより、むしろ「基盤医薬」として捉え、研究開発することに興味を持ちました。
 ジェネリック医薬品メーカーはいわゆる「パイプライン」に沢山の開発品を持っていますから、我々の新技術を試してみる素材を沢山持っています。大学で研究しているだけでは、折角の我々の最新科学・技術も絵に描いた餅です。東和薬品と密接に研究を進めることで、新技術の用途が初めて分かってきました。
 私の研究に対するスタンスは、「Scientist should provide dreams for people, and solutions for social problems.(科学者は人々に夢を与え、社会問題に答えを与えるべきである)」であり、20年来講演の度にそれを最初にお話ししてきました。今回の研究も、まさにこのスタンスに立ったものです。我々の興味はサイエンスにありますが、製薬メーカーと組むことで出口につながるわけです。

——有機化合物の結晶化プロセスの可視化、制御技術とはどのようなものですか?

 中村 原点は、2007年にScienceに掲載された私たちの研究にあります。それまで、有機分子を電子顕微鏡で観察することが難しいとされていましたが、カーボンナノチューブ内に分子を閉じ込めたり表面にくっつけることで、単一有機分子を顕微鏡下で観察することにはじめて成功したのです。その後、カーボンナノチューブの先に有機分子を付け、溶液の中の状態を電子顕微鏡で観察していると、有機分子が徐々に集まって、結晶の“種”のようなものができていくことがわかりました()。それが何かのきっかけで結晶化するのです。この技術の最大の利点は、結晶化の過程を最初から順番に映像として追えることにあります。写真では二次元の情報しかわかりませんが、動画で見ると三次元的な構造変化を経時的に把握できるのです。
 1種類の有機分子からは多種類の結晶ができますが、結晶化の過程のしかるべき段階でコントロールすると、その後デザインした通りの集合体の形成へと進むこともわかってきました。つまり、最適な結晶を作るためにはどの段階で何をすれば良いかの見当がつくわけです。

図●中村教授らの電子顕微鏡の有機化学応用に関する実績
図●中村教授らの電子顕微鏡の有機化学応用に関する実績

——その技術を創薬に結びつけようとされたのですね。

 中村 創薬プロセスの最終段階は結晶化と製剤です。これまで製薬会社では、トライ&エラーで最適な結晶を拾っていました。しかし、私たちの持つ結晶化制御技術を使えば、合理的に結晶化を進めたり止めたりすることができ、薬の開発スピードを早めることができます。これは、多種多様な製品を生み出している基盤医薬品メーカーにとっては大きなチャンスです。基盤医薬品の場合、新薬開発と異なり創薬のターゲット成分が数百に上ります。それを人海戦術で端からランダムに結晶化させる現在のやり方は無駄が多いのです。一方この技術を使えば、開発スピードが半年は早くなると考えています。また、少量のサンプルでの研究段階で利用可能な結晶化の見極めがつくため、開発研究のおもしろみも倍増します。結果として、製薬メーカーの国際競争力の向上にもつながるので、これこそイノベーションといえるでしょう。東和薬品は、国内基盤医薬品メーカーの中でも自社での原薬製造に力を入れる方針を打ち出しているため、このプロジェクトが可能になりました。

——こうした取り組みをCOIで行う意義は何でしょうか?

 中村 東京大学COIには医療におけるICTの活用や新医療機器の開発のプロジェクトや我々のプロセス開発プロジェクトも入っています。健康医療ICTオールジャパン標準化プロジェクトと協力すれば、高品質の基盤医薬を廉価に確実に患者さんの手に届けることができるのではないかと思っています。このような枠組みでの大学と企業の共同作業は、大学研究者と企業の二者だけでの共同研究では実現不能ですし、また科学研究費助成事業にも馴染みません。情報のすべてを公開はできないため、学術研究の枠組みで推進するのが難しいからです。
 これからの新薬開発は、複数の標的タンパクを念頭に置いた病態、難病や稀少疾病がターゲットになるでしょうし、基盤医薬については①安価でいつでも手に入る、②世界中で流通する競争力を持ち、③高品質で患者に優しい、という3つの目標を叶える方向に進むべきでしょう。本来、製薬は頭脳集約型の事業であり、日本人が最も得意とする分野であるはずです。今後は、国を上げてものづくり産業として育成していって欲しいと思っています。その意味でも今回のCOIは大いに意義のある事業だと考えています。

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