株式会社テクノアソシエーツ

ものづくり/レーザー加工技術

2015.02.26

Mooreの法則を維持する最重要技術、
EUV露光の実用化が視野に入った
ギガフォトン 代表取締役 副社長 兼CTO 溝口計 氏

 半導体デバイスは、人類史上に輝く最重要工業製品と言える。家や街の中にある多くの機器は、仮に半導体デバイスがなければ存在していないだろう。その巨大な存在感と驚くほどの波及効果の背景には、1チップ上のトランジスタの集積度が18カ月ごとに2倍になるという、いわゆる「Mooreの法則」がある。トランジスタの集積度はシステムの性能や機能の向上に直結する。それが指数関数的なペースで50年以上にわたって進歩し続け、機械や材料科学など他の技術の進歩を圧倒したのだ。だが、その「Mooreの法則」の継続が危うくなっている。チップ上に電子回路のパターンを刻む、露光技術の進化が困難になってきたからだ。これまでは、KrF(波長は248nm)、ArF(同193nm)、ArF液浸(同134nm)と、より波長の短い光源による露光技術を開発することで、より微細なパターンを刻めるようにしてきた。しかし、その先を担うとみなされている光源、EUV(同13.6nm)がなかなか実用化に至らない状況なのだ。ただし、光源メーカーであるギガフォトン 代表取締役 副社長 CTOの溝口 計氏(写真)は「EUV光源の実用化のメドはついています」と断言する。現在、EUV光源を使った露光技術を実際に半導体工場で運用できるようにするための詰めの部分となる技術開発を、文部科学省の研究開発支援プログラム「COI STREAM」のテーマのひとつである「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)」で進めている。同氏に、ICCPTで行っている技術開発の概要と今後の見通しを聞いた。

——EUV光源の実用化は、とても難しいと聞いています。

写真●ギガフォトン 代表取締役 副社長 兼CTO 溝口計 氏 写真●ギガフォトン 代表取締役 副社長 兼CTO 溝口計 氏

 溝口 EUVは究極の光源です。EUV(13.6nm)ならば、理論的には解像度は開口数(NA)を上げれば9nmまで向上できます。さらに波長を6.7nmにまで短くできれば、4.5nmの解像度の実現も見えてくるのです。しかし、これを実用化するのが、思いのほか難しい。これはこの波長域では透明材料が無いため光学系を反射ミラーだけで構成せざるを得ないのですが、光学系を構成するミラーの反射率が約7割しかないからです。半導体製造用の露光装置の照明・結像光学系として使うためには、ミラー11枚構成の光学系が求められます。このためこの光学系の透過率は0.7の11乗となり、光源発光強度の約2%しか露光に使えません。これは、かなり本質的な問題です。光学系で大きな損失があることを見越した強い光が必要になるのです。

 最新の学会では、他社が80Wの出力を実現したと報告しています。ただしこの位の出力では露光に時間がかかり過ぎて生産性が低く、ロジックLSIの高速化への影響が大きいパターンに限定して使うしかありません。チップに刻むトランジスタや配線などの全てのパターンの形成にEUV駆使し、チップ全体の大集積化に貢献することができないのです。DRAMやフラッシュメモリーのように、高集積化がチップコストを低減する用途では、250Wの出力を実現する必要があります。私たちは現在、三菱電機と共同開発したドライバ用CO2レーザー増幅装置を使って、250W出力の実現を目指した開発をしています。既に、プロト装置で14kWのCO2レーザー入力で、実測値で118WのEUV光の出力を確認しました。20kW以上のCO2レーザー入力が実現できれば、計算上は250Wの実現が可能なことも確かめられています。2015年夏頃にはパイロット装置を完成させ、250W実証を目指します(図1)。

図1●2015年夏頃にはDRAMなどの製造に適用できる250W出力実証を目指す予定(資料提供:ギガフォトン)
図1●2015年夏頃にはDRAMなどの製造に適用できる250W出力実証を目指す予定(資料提供:ギガフォトン)

——出力向上のメドはついているのですね。では、なぜICCPTに参加したのか、きっかけをお聞かせください。

 溝口 EUV露光を半導体工場内で使えるようにするためには、もうひとつ解決しておかなければならない課題がありました。運用中の光源の劣化を検査し、メンテナンスする技術が必要なのです。EUVの発光システムでは、直径20μmの融けたスズを液滴し、ここにパルスレーザー光を当ててプラズマ化させて発光させます(図2)。発光部は約30万℃に達し、イオン化したスズの原子は大きな運動エネルギーを持っています。このため、四方八方に飛び散り、発光源の周囲に配置した集光ミラーにくっついて汚してしまいます。つまり、使っている間に、徐々に露光装置に届く光が減り暗くなってしまうわけです。ギガフォトンでは、発光源を挟むように超電導磁石を配置して強い磁力線でプラズマを閉じ込める機構や、エッチングガスとしてH2ガスを集光ミラー上に流す仕組みを付けて、対策を採っています。それでも、どうしてもスズのイオンが多少漏れてしまい、ミラーの表面を傷つけます。こうしたダメージを低コスト、迅速かつ小型の装置で検査し、手軽にメンテナンスできる方法が確立していないのです。

 集光ミラーのどの部分がどの程度汚れているのか。多くの検査情報を精密に調べるためには、コヒーレントなEUV光源が必要になります。今のところSOL(放射光)を当てて光学系の評価をしています。しかし、開発・生産拠点から遠い、運転コストが高い、装置が巨大で使用に制限が多いなど、とても手軽に使えるようなものではないのです。私たちは、露光に使うインコヒーレントなEUV光源については多くの技術的蓄積を持っていました。しかし、コヒーレントなEUV光源に関する蓄積はありませんでした。苦労して高出力の光源の実現にメドをつけても、それを利用するために欠かせない検査やメンテナンスには、難易度の高い異質な光源が必要だったのです。

 コヒーレントなEUV光源の開発は、企業ではとても手出しできない領域だと考えていました。そこで知ったのがICCPTです。ICCPTは、テーマ名の中に“コヒーレント”という言葉が入っているように、私たちの求める検査用光源を実現できる期待感がありました。実際、ICCPTの枠組みの中で、東京大学の物性研究所が開発している高次高調波技術を使えば、必要な小型の光源を実現できることが分かりました。EUV露光の実用化に向けた障害に、ブレークスルーの可能性ができたのです。今私たちは、ICCPTに参加する大学、研究機関、企業と議論しながら、EUV露光装置の光学系を検査できる装置を開発しています。

図2●ギガフォトンのEUV光源の構成(資料提供:ギガフォトン)
図2●ギガフォトンのEUV光源の構成(資料提供:ギガフォトン)

——ICCPTで磨いた技術をどのように事業化していくのか、展望をお聞かせください。

 溝口 実際に光学系の検査に使うためには、数十時間といった長時間にわたって、安定した光を出し続けられるようにしておく必要があります。私たちは、実際にお客様が半導体デバイスの生産に使い始め、ミラーの交換などが始まるまでには、現在開発している光学系の評価技術を確立させたいと考えています。最終的には、半導体工場ごとにサービス拠点を置いて、オンサイトで検査できるようにしておく必要があると考えています。

 検査用光源の開発と同時に、メンテナンスの体制も整えていきます。EUV露光を半導体デバイスの生産に使う場合、ミラーに要するコストが高くなると思われます。このため、単純に汚れたミラーを交換するのではなく、なるべく再生して利用することを考えなければなりません。理想的には、軽微な汚れはその場で除去し、ミラー表面の多層膜にダメージが入っている場合には回収して除去・再成膜し、ダメージが大きい場合だけミラーの表面を磨き直すといった、状況に応じたメンテナンスができるようにしておきたいと考えています。これまで半導体デバイスの生産に使われていた露光装置の光学系ならば、こうした対応は普通に行われてきました。しかし、EUV露光の場合には検査ができなかったため、十分なメンテナンス体制が確立していません。

——ICCPTは、オープンテーブルで技術開発を進める場です。ギガフォトンにとっての、オープンな場に参加することの意義をお聞かせください。

 溝口 このプロジェクトには、コヒーレントな光に関わるさまざまな専門家が集まっています。こうした場では、私たちとは専門領域が違う研究者から、異なった視座からのさまざまな意見を聞けます。コヒーレントな光という共通の話題の中で、私たちが思っても見なかったようなアイデアや知見が出てくるのです。EUV光の利用は、分野として確立しているわけではありません。このため、課題を抱えた時に、誰に聞けば解決策を知っていそうなのか、全く見当もつかない状態なのです。さまざまな意見をまとめて聞き、その場で議論できることは、こうした未開拓の領域の中を着実に進んでいくために欠かせないことなのです。

 もちろん、製品の図面のような事業に直結するものに関しては、クローズドな関係を結んで技術開発を進める必要があるでしょう。このため、全てをオープンな場で議論しなければならないプログラムには参加できません。しかしICCPTでは、「オープンステージ」「フォーカスステージ」「クローズドステージ」と、メンバーとの関わり合い方を段階的に変えることができます。私たちのように、事業を進める上で必要な技術を、すべて自社開発できない規模の企業にとっては、とてもありがたい仕組みだと考えています。

——ICCPTへの参加を検討する企業にメッセージをいただけますか。

 溝口 先端分野の技術を使ってビジネスを考える場合、どこに相談したら抱えている課題を解決できるのかわからないことが多々あると思います。また、さまざまな産学連携のプロジェクトがありますが、思ったほど開発が深まっていかなかったり、広がらなかったりといったこともあるかと思います。ICCPTの中にあるオープンテーブル場で、ざっくばらんにさまざまな角度から議論する中から、新しい展開を見いだせることもあるのではないでしょうか。

関連記事

ページトップへ
Copyright © TechnoAssociates, Inc. All rights reserved.