株式会社テクノアソシエーツ

ものづくり/レーザー加工技術

2015.02.20

「個別生産の時代」を支える生産ラインを
レーザー光を駆使して作りたい
三菱電機 FAシステム事業本部 産業メカトロニクス事業部 技師長 安井公治 氏

 日本は、自他ともに認める「ものづくり大国」だ。例え生産拠点が新興国などに移ろうとも、日本企業が開発・生産した製品の優秀さは世界中のユーザーが知っている。では、これからも「ものづくり大国」であり続けることができるのか。実は、多くの日本国民が考えるほど、盤石な立場にいるわけではない。ものづくりのパラダイムが、根本的に変わりつつあるからだ。大量消費時代を支えていた“大量生産”から、サステナブルで豊かな社会を支える“個別生産”へと転換していく動きが、欧米を中心に活発化してきた。設計データをそのままかたちにする3次元プリンタは、こうした新しいパラダイムでのものづくりの代表例だ。ユーザーが要求する仕様の製品を、必要に応じて迅速かつ低コストで入手できる時代がすぐそこまで来ている。今、日本のものづくり企業は、発想の転換を迫られている。「生産ラインの全てを、個別生産が可能な光ベースの加工装置で構成できる技術を確立したい」。文部科学省の研究開発支援プログラム「COI STREAM」のテーマのひとつである「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)」のプロジェクトサブリーダーを務める三菱電機 FAシステム事業本部 産業メカトロニクス事業部 技師長の安井公治氏(写真)はこのように語る。三菱電機は、新しいパラダイムに沿ったどのようなものづくりを考えているのか。そして、その実現に向けて、ICCPTが作り出すオープンな研究開発の場に何を期待しているのか。同氏に聞いた。

——ICCPTに参加したきっかけをお聞かせください。

写真●三菱電機 FAシステム事業本部 産業メカトロニクス事業部 技師長 安井公治 氏
写真●三菱電機 FAシステム事業本部 産業メカトロニクス事業部 技師長 安井公治 氏

 安井 私たちは、レーザー光を活用して、さまざまな材料を、さまざまな形へと自在に加工できる技術を確立したいと考えています。これまで当社では、高密度プリント基板への穴あけ用や板金切断用のレーザー加工機を開発し、販売してきました。そして今では、スマートフォンなどに搭載する高密度多層ビルドアップ基板の生産ラインに採用され、新興国の工場に大量導入されています。ところが、実は、なぜレーザー光で加工できているのか、詳細な仕組みは、科学的に見ればまだ十分に把握できていないのです。基本動作モデルをベースに、多くの加工対象と加工条件を組み合わせて試行錯誤を重ねて加工しているのが現状です。

 レーザー光を使った加工には、切削やプレスといった機械的な加工方法に比べて、多くの長所があります。設計データに応じた個別加工を、高速かつ精密に行うことができるのです。しかし、いかんせん加工現象を把握できていないため、応用できる対象には限りがありました。また、例えば、今話題の「Industry4.0」のようなデジタル生産革新要求に対応できるようにするためには、製品開発部門が考えた加工が本当にできるのか、可能な限り正確なシミュレーションで確認できるようにしておく必要があります。シミュレーションに使うモデルを作るためには、加工現象の科学的な理解が欠かせません。ところが、幾度も加工現象の把握にトライしたのですが、難しく、私たちだけではとても歯が立たなかったのです。

 そのような課題を抱えていたところに、困難であるがそれを解決すると大きな展望が開ける課題に、大学と企業が協力して取り組むことができないかと東京大学から誘いを受けました。大学の優秀な人材と保有する豊かで深い知見を活用することで、産業界が直面している課題を解決するための知恵を一緒に探そうという提案でした。加工現象をまず例題として提示したのですが、科学的に見ても把握が極めて難しい現象であると説明を受け、我々だけで取り組むことが無理な課題であったことがわかりました。こういった高度な学問が必要な課題に一緒に通り組んでいただくことこそ、まさに企業の現場が、研究機関としての大学に期待していることだったのです。

——ICCPTで磨いた技術をどのように事業化していくのか、展望をお聞かせください。

 安井 例えばプリント基板の穴あけでは、半導体デバイスの進化に合わせて加工速度を高速化していかなければなりません。半導体デバイスの処理能力が上がれば、そこに出入りするデータの量が増え、プリント基板の配線も複雑化していくからです。半導体デバイスは、「Mooreの法則」に沿って指数関数的に進化します。このため、穴あけも指数関数的に高速化してきています(図1)。これまで、10年間で速度を10倍に上げてきましたが、今後も同様な高速化が、いろいろな加工対象で要求されるものと思います。このような目標は、機械加工に頼っていては、達成は無理です。レーザー加工機ならば、こうした速度向上に追随できる潜在能力を持っています。ここを追求していきたいと考えています。

図1●半導体の進化に合わせて、レーザー加工機を高速化(資料提供:三菱電機)
図1●半導体の進化に合わせて、レーザー加工機を高速化(資料提供:三菱電機)

 また現在私たちは、レーザー光による炭素繊維強化樹脂(CFRP)や、ガラスの加工を、ICCPTのオープンテーブルの場で議論しています。いずれもレーザー光での加工が困難な材料です(図2)。切断、精密加工、自由形状加工を自在にできるようにし、なおかつ飛躍的な高速化を目指しています。こうした技術を確立することができれば、デザイン性を重視した商品の開発・生産や、軽量で高強度な材料の応用拡大につながります。 これらの材料の加工技術に関して科学的見地に基づくモデルを作り、シミュレーションできる状態にしたいと考えています。そして、どの生産ラインにどの程度適用できるのか、見通しを立てられるようにします。最終的には、スマートフォンなどを生産できる、すべての工程をレーザー加工機で構成したモデルラインを作ってみたいと考えています。こうしたラインを作ることによって、個別生産による生産革新が加速し、関連事業の創出、新企業の創出といった波及効果が生まれてくると思います。

図2●レーザー光による難加工材の加工例(資料提供:三菱電機)
図2●レーザー光による難加工材の加工例(資料提供:三菱電機)

——ICCPTは、オープンテーブルで技術開発を進める場です。三菱電機にとっての、オープンな場に参加することの意義をお聞かせください。

 安井 Henry Chesbrough先生が提唱されたとされるオープンイノベーションは、パラダイムシフトが起きる時にこそ必要とされる考え方です。コア技術の開発は、クローズドな開発体制の中で進めたとしても、具体的なアプリケーションを拓くためには、外部企業とコンセンサスを取りながら開発する必要が出てきます。例えば、ICCPTでは、加工対象となる材料を供給している東レと一緒にCFRPの加工現象を把握すべく、協力しながら取り組んでいます。

 ICCPTでは、情報を公開して開発を進める「オープンステージ」だけではなく、取り組みの一部だけを公開しながら大学の助言を得る「フォーカスステージ」、完全に非公開で進める「クローズドステージ」と状況に応じた協力関係が築けます。これは、企業にとっての安心感につながっています。しかもオープンステージで築いた関係を引き継ぎながら、クローズドステージまで移行していくことができるため、とても効率のよい方法だと感じています。お付き合いの短い先生や企業といきなり排他的な関係を結ぶのは、リスクがあります。いざ始めてみたら、実はズレていたなどということがありかねないからです。ICCPTでは、オープンステージで、自由闊達な雰囲気で議論を進め、一番ぴったりな先生を紹介していただきながら、段階を経て技術を煮詰めていくことができます。

 新しい技術を使いこなせる環境を作り上げるためには、周辺の技術も含めたエコシステムを整える必要があります。オープンな場で、さまざまな分野の企業や先生と議論することは、ICCPTの中に小さなエコシステムができるのと同じ効果があります。東京大学からはICCPTの研究リーダー五神先生、プロジェクトリーダー湯本先生に毎回会議に出席していただけますし、参加している企業もその場で意思決定ができる立場の方が会議に出席するので、かなり迅速な対応ができます。大学側も企業側も、これまでの産学連携とは比較にならないほど、本気で取り組んでいます。ここで、技術をブラッシュアップすることは、難しい技術を実用化していく上で、早道だと感じます。

——ICCPTへの参加を検討する企業にメッセージをいただけますか。

 安井 こうしたオープテーブルでの技術開発の仕組みは新しく、どのような効果があるのか、気にされている企業は多いと思います。新しいものづくりの技術を確立する仲間の輪が、さらに広がることを期待します。金属メーカー、自動車メーカーなどさまざまな分野の企業が参加していただきたいと思います。

 ICCPTには、企業側からは技術責任者が、大学側からはトップクラスの教授、本部幹部が集結し、毎月4時間以上の拠点会議を1年以上続けてきています。議論のテーマも、参加人数も、増えることはあっても減ることはありませんでした。これは驚くべきことです。企業、および大学の現場・現状を知りつくす行動力のあるトップ同士の交流が、いかに相乗効果を生むかという実例と考えます。産学連携の形態としては新しい試みとしてスタートしましたが、既にかたちになってきていると思います。新しい知の持続的な投入を期待します。

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