株式会社テクノアソシエーツ

ものづくり/レーザー加工技術

2015.02.06

高強度極短パルスレーザーが作り出す
現実離れした現象をものづくりに生かす

写真●ICCPT プロジェクトリーダー、東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構の湯本潤司教授
写真●ICCPT プロジェクトリーダー、東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構の湯本潤司教授

 これまで私たちは、目に見え、感じることのできる自然現象を中心に、工業製品を作り出す技術として活用してきた。100兆分の1秒(フェムト秒)に、ピークパワー数兆Wという巨大なエネルギーを集中させることができる高強度極短パルスレーザーは、現実離れしたさまざまな現象を引き起こす。ものづくりの技術としての活用は、全く手付かずの現象ばかりだ。こうした特異な現象を理解し、使いこなすことができれば、これまで実現できないと思われていた魔法のような処理や加工が可能になる可能性がある。

 文部科学省の革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)で取り組む課題のひとつとして進められている「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)」では、高強度極短パルスレーザーが引き起こす特異な現象を生かした、未来のものづくり手法の確立を目指している。その応用分野は、驚くほど広い。既に実用化に向けて着実に近づいている成果も数多く出ている。ここでは、開発している技術の一部を紹介する。

開発テーマの紹介1:レーザーの波長が自由に調整できる光源
物質の個性に、加工や分析に用いるレーザーの条件を合わせる

 物質には、それぞれ個性がある。放出する光の波長、抵抗、バンドギャップなどが一つひとつ異なる。また同じ物質であっても、ドーピングするわずかな不純物の種類や量を変えると、物性が微妙に変わる。私たちは、こうしたわずかな物性の変化を利用して、狙った特性を備えた電子デバイスなどを作り出している。

図1●理化学研究所のグループが開発中のレーザー光源の外観
図1●理化学研究所のグループが開発中のレーザー光源の外観

 加工や分析にレーザー光を使う場合、対象となる物質の個性に合わせて、当てるレーザー光の条件を調整できる必要がある。例えば透明なガラスは、レーザーでの加工が困難な物質だが、紫外線領域に吸収帯があるため、ここに条件を合わせたレーザー光を当てれば加工できる。ところが、YAGレーザー、CO2レーザー、エキシマレーザー、ファイバーレーザーといった現在の大出力レーザーは、波長が決まっており、加工対象である個々の材料に最適な波長のレーザー光を手に入れることができなかった。その結果、最適でないことはわかっているが、用意できるレーザーを用いて、加工や分析を行っていた。

 ICCPTでは、内部に波長を変換する装置を組み込んだ、レーザーの波長を100nm〜数百μmまで自由に変えられる光源を開発している(図1)。理化学研究所 光量子工学研究領域・領域長 エクストリームフォトニクス研究グループの緑川克美主任研究員らが開発中のものだ。出力やパルス幅など、数あるレーザー光の条件の中で、最も調整が困難なものが周波数である。例えば、Nd-YAGレーザーの波長は、赤外線領域である1064nmで固定している。それを半分の532nm、さらに半分と逓倍にすることはできる。しかし、必要に応じて少しだけ波長を変えるといった融通が利かなかった。開発中のレーザー光源は、Yb-YAGレーザーを基本波とし、共振器内に光非線形媒質を挿入し、UV領域や中赤外、THz領域の波長をかなり自由に、異なるポートからの出力が可能となる。

開発テーマの紹介2:難加工材・難加工形状の加工
瞬間的に生じる特異な現象で、あり得ない加工を可能に

図2●レーザー加工機による切断
図2●レーザー加工機による切断
図3●光造形で試作したマイクロフローミキサー
図3●光造形で試作したマイクロフローミキサー

 金属に十分長い時間レーザーを当てると、温度が上昇し、ついには原子が飛び出すまたは蒸発してしまう(図2)。これが既存のレーザー加工機で金属を切断できる原理である。ところが、アト秒と、瞬間的なパルスのレーザー光を当てると全く別の現象が起きる。原子周辺の電子は高いエネルギーを持った状態に変化するが、原子の格子は振動しない。つまり、光のエネルギーは、電子に乗り移るが、物質自体の温度は上昇していない。さらに、条件次第では電子が飛び出してしまい、プラスのイオンだけが格子状に並んだ状態になる。そしてイオン同士が反発してクーロン爆発を起こし、イオン化した原子だけが飛び出す。この時、金属は切断されるが、格子の熱振動は起こらないため、残った材料への影響を最小限に抑えられる。

 軽くて丈夫な材料として、カーボンファイバー強化プラスチック(CFRP) に注目が集まっている。米Boeing社の最新鋭旅客機「Boeing 787」の機体の材料として採用され、ゴルフクラブのシャフトやテニスラケットなど身近なモノにも使われている。CFRPは、ほかには代えがたい利点を持った材料だが、その一方で加工が極めて困難という欠点がある。長所と短所は表裏一体である。

 カーボンファイバーは、約3600℃で昇華する。熱で切断するためには、ここまで温度を上げる必要がある。しかし、カーボンファイバーのシートを貼り合わせている接着剤の融点は約200℃。こうした特性が大きく異なる材料の状態を、同時に制御できないと切断できない。ダイヤモンドブレードやウォータージェットで切ることもできるが、切断の速度や廃棄物の発生など問題を抱えている。ICCPTでは、高強度極短パルスレーザー光を使って、こうした難加工材の切断に挑んでいる。

 CFRPの切断が可能であることは既に確認済みである。しかし、カーボンファイバーの仕様や接着剤の特性を変えても、柔軟に対応できるだけの知見は蓄積できておらず、特に、レーザーで切断されたCFRPの強度特性、疲労特性は、十分に解明されていない。また、波長や、パルス幅や加工精度に影響することが分かっているが、その理由も不明である。現在、ICCPTでは、起こっている現象を学理に基づいて理解し、加工対象に合った高強度極短パルスレーザーの条件を導き出せる方法を追求している。

 切削や射出成形などでは作ることが難しい形状、大きさのものを作るのにもレーザーが利用できる。現在かなりポピュラーな加工手段となった、光硬化性樹脂を使った3Dプリンターがそれである。光硬化性樹脂は、当てる光の解像度を高くすれば、相応に微細な構造を作ることができる。ICCPTでは、直径2cm、長さ約5cmの棒に150μmの小さな穴を150本空けられることを確認した。また、理研光量子工学研究領域の杉岡幸次理研-SIOM連携研究ユニットリーダーのグループでは、マイクロ流露中に10μmオーダーの微細構造 を作り、流量を制御するマイクロフローミキサーも試作している(図3)。

開発テーマの紹介3:材料の改質への応用
物質の欠陥や表面状態を原子レベルで改質して不可能を可能に

 ガス中に加工対象を置き、そこに高強度極短パルスレーザーを当てることによって、切断だけでなく、光を触媒とした表面処理や材料の改質ができる。

 スパッタや蒸着のような薄膜の形成手法では、処理装置に入れた加工対象の表面全体を処理する。これに対し、強度極短パルスレーザーを使った表面処理では、マスク無しで部分的な表面処理ができる。また、光を当てた部分だけの反応を進めるため、ガスの消費を最小限に抑え、低環境負荷にもつながる。しかも高速かつ高精度での処理が期待できる。

 レーザーを使って非平衡状態を作り出すことによって、通常の熱平衡状態図とは異なる合金、物質が界面で局所的にできるようになり、これまで接合が不可能だった材料同士での接合できるようになる。しかも、熱的に融着させる場合に比べ、機械強度が高まることも期待できる。現在、東京大学 理学系研究科物理学専攻の常行真司教授のグループが、シミュレーションによって、強い光励起によって電子状態や物質構造がどのように変化するのか、評価し、予測する方法の確立に取り組んでいる。また、工学研究科の石川顕一教授のグループでは、物質がレーザーパルスによってどのように切断されるのか、第一原理計算からシミュレーションを進めており、実験結果との比較からより効率的で、高い信頼性が得られるレーザー加工技術の可能性を追求している。このような理論あるいは計算グループだけでなく、x線顕微鏡や光電子分解分光などのサイエンスの観点からのアプローチが、理学系研究科長の五神真教授や理学系化学専攻の山内薫教授のグループが進めており、工学と理学が一体となった取り組みは、大きな強みである。

開発テーマの紹介4:半導体製造の次世代露光機用光源の開発
0.3nmの凹凸を評価して、Beyond Mooreの法則を支える

 現在の最先端の半導体製造工程では、波長が193nmのArFエキシマレーザー光源を使った露光装置を使って、原版の回路パターンをシリコンウエハーに転写している。より微細なパターンを転写するため、13.5nmとより波長の短いEUV光源を使った露光装置の実用化が待望されている。ところが、明るいEUV光源を作るのが困難なため、なかなか実用化に至らないでいる。この開発にICCPTに参加しているギガフォトン、東京大学が挑んでいる。

 EUV光源の大出力化は、ギガフォトンで進められているが、東京大学は、光源から出た13.5nmの光を結像させるための光学系を構成する高精度なミラーを作るために必要な、面精度評価用のレーザー光源を開発している。EUV露光の光学系では、ミラーの面精度を、原子10個分のサイズに相当する0.3nm以下に抑える必要がある。つまり、0.3nmの凹凸を評価できる手法を確立しなければならない。

 EUV露光の光源自体はレーザーである必要はないが、この光学系の評価には波長が13.5nmのコヒーレントなレーザー光が必要になる。レーザー光を評価対象のミラーに反射させ、干渉によって、わずかな凹凸が見えてくる。ICCPTが、目的のレーザー光を作り出すために用いている手法はこうだ。1030nmの波長の高強度極短パルスレーザーを希ガスに集光し、高次高調波ビームが発生させる。すると59次の高調波の波長が13.5nmとなる。2次、3次の光非線形性による高調波は一般的であるが、59次の高調波となると想像を絶する領域の非線形現象である。

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