株式会社テクノアソシエーツ

ものづくり/レーザー加工技術

2015.01.23

未来を支えるものづくりを目指す東大COI拠点:ICCPT
個を生かす持続可能な社会を
光を駆使したものづくりで創出

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光を使った加工によって柔軟性を向上

 ICCPTで研究開発している内容について、その概略を紹介しよう(図2)。これまでのものづくりでは、金型や原版といった形の定まったモノを介して、同じ形状を写して製品を作り出していた。また、熱処理や表面処理などでは、大きな容器の中に多くの処理対象を一度に放り込み、均一な条件で処理していた。

図2●ICCPTが目指すこと
図2●ICCPTが目指すこと
写真●ICCPT プロジェクトリーダー、東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構の湯本潤司教授
写真●ICCPT プロジェクトリーダー、東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構の湯本潤司教授

 こうした方法は、すべて大量生産を前提としたものだ。しかし、利用者一人ひとりの個性に合わせた製品を作り分けるには大量生産は向かない。例え多種多様な設計データや生産のレシピが用意されていても、金型や原版などを作る費用が高く、また処理の単位が大きすぎて、製造コストの増大を招くからだ。これに対しICCPTで開発している技術では、「特性をきっちりと制御したレーザービームを使って、加工したい場所だけを、加工したい形、加工したい特性に変えることを目指しています」(ICCPT プロジェクトリーダーを務める東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構の湯本潤司教授)(写真)。

 ICT技術の進歩によって、製品設計や生産工程のレシピ作りでは、効率化が進んできた。開発した設計データや生産レシピを、加工する装置に迅速に伝えるシステムも出来上がっている。つまり製品の開発環境の面では、個のニーズにきめ細かく応えられる準備が整いつつある。しかし、肝心の生産手法が大量生産を前提にしたままだ。ICCPTが研究開発する光を使った加工法では、加工条件を柔軟かつ迅速に制御・変更できる。つまり、個のニーズに対応するためのものづくりに必要な最後のパーツが埋まる。

 さらに、必要な部分だけを加工できることから、処理に必要な素材を過剰に消費しない。このため、産業廃棄物の削減や資源の有効利用につながる。また、処理や加工をしたくない部分に、余分なダメージを与えることもない。よって、加工精度や製品の品質の向上も期待できる。

100兆分の1秒に、ピークパワー数兆Wのエネルギーを集中

 近年、短時間に光のエネルギーを集中させたパルスのレーザービームを作り、それによって生じる特徴的な現象を生かす研究が進んできた。今では、100兆分の1秒(フェムト秒)に、ピークパワー数兆Wと巨大なエネルギーを集中させることができるようになった。こうした極めて高いエネルギーが、物質の特定の場所に瞬間的に当たると、常識的な尺度の世界で起きるのとは全く違う現象が起きる。ICCPTで開発する技術では、こうした特異な現象の活用も想定している。

 例えば鉄鋼業などでは、炉の中に原料を入れ、全体の温度を一旦上げて溶融し、温度が下げることによって新しい材料を生成している。また、シリコンなどの半導体結晶や誘電体結晶の育成には、温度の上げ下げには十分な時間を掛けて、平衡状態を維持しながら化学反応や状態変化を起こさせる。平衡状態を維持しながら温度を下げると、原子間の衝突が徐々に収まり、安定した一定の結晶構造に落ち着く。

パルス照射によって生まれるあり得ない状況

 ところが、高強度極短パルスレーザーを物質に当てる場合、全く異なる現象が起きる。局所的に非平衡状態を作り出せるようになるのだ。等価的な温度も、瞬間的に数億℃まで上がる。こうした場合、原子中の電子の状態は大きく変化するが、格子の振動がほとんど起こらない。平衡状態を維持した場合には見られないような現象が起こり、これまでの加工法では作り得ない特性の物質が出来上がる可能性がある。

 ICCPTで開発している新しい加工法の多くは、こうした高強度極短パルスレーザーでなければ作り得ない状況で起きる特殊な現象を生かしたものだ。ただし、こうした特異な現象は、これまでのものづくりの中では見られない現象ばかりであり、産業界が過去に蓄積してきた知見やノウハウでは使いこなせない。ここに、「物理学を始めとする科学の知見が不可欠」(湯本教授)という。

圧倒的な可能性は分かっている、でも使いこなせないでいる

 レーザーを使った加工技術は、既にものづくりの現場で使われている。例えば、電子回路を作るプリント基板の生産では、レーザーを使って設計データに応じて作り分ける生産手法が実用化されている。

 しかし現在実現できている加工は、試してみて、たまたま加工できたものに限定されている。実は、なぜ加工できるのか、学理レベルで判明していない。また、光源の種類も現状では限られている。このため、加工したい材料、加工法に合わせて、どのような仕様の光源を用意したらよいのか、明確な指針がないのだ。ましてや、前述したような現実離れした現象をそろばんずくで活用することなどできなかった。

 圧倒的な可能性を持つことはハッキリと分かっていながら、使いこなすにはほど遠い状態にある。これがレーザーを使った加工の現状なのだ。

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