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アスタキサンチンにパーキンソン病症状改善作用の可能性
モデルマウスで歩行動作が改善,延命効果も

[2008/07/01]

 順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座の白澤卓二教授は,6月7日に開催された第8回に抗加齢医学会総会のセミナーで,天然の色素成分であるカロテノイドの一種「アスタキサンチン」に,神経細胞の細胞死を抑制する作用や,パーキンソンモデルマウスでの症状改善や延命効果があると発表した。この研究は,白澤教授とヤマハ発動機ライフサイエンス研究所,東京都老人総合研究所,アンチエイジングサイエンスが共同で行ったもの。

人口10万人当たり約100人が罹患
 パーキンソン病は,脳の神経が変性して起こる疾患で,加齢とともに増加する。米国の俳優マイケル・J・フォックスや,ボクサーのモハメド・アリ,ローマ法王ヨハネパウロ2世らが発症したことで知られる病気だ。手足のふるえや,筋肉の硬直,活動性の低下などの症状が特徴で,手足の動きがぎこちなくなる,動作が遅くなる,転びやすいといった運動障害が見られる。神経変性疾患としては,アルツハイマー病に次いで有病率が高く,人口10万人当たり約100人がこの病気にかかっているという報告がある。
 パーキンソン病は,脳の線条体といわれる部分に多く存在する神経伝達物質「ドーパミン」が欠乏して発症する病気。ドーパミンの欠乏は,ドーパミンを線条体に運ぶドーパミンニューロン(ドーパミン神経)が壊れ,減るために起こり,パーキンソン病の人ではドーパミン神経が大幅に減ることが知られている。ドーパミンニューロンの変性や消失は,ミトコンドリアの機能不全に伴う酸化ストレスの亢進や慢性炎症がその原因の一つといわれている。

典型的症状を示すモデルマウスで検討
 今回の研究では,まず,パーキンソン病の典型的な症状である,震え,筋肉の硬直,活動性の低下を発症する「パーキンソン病モデルマウス」(ドーパミン産生細胞特異的Mn-SOD欠損マウス)に,「アスタキサンチン」を経口摂取させ,歩行状態や活動量,寿命などを見た。
  アスタキサンチンは,サケやイクラ,エビ,カニ,オキアミなどに多く含まれる天然の色素成分で,強力な抗酸化作用を持つ。最近のヤマハ発動機などの研究により,脳の認知行動能力を向上させる作用(関連記事)や,抗炎症作用(関連記事)があることが確認されており,今回はアスタキサンチンの神経変性疾患に関する作用について検討した。
 実験では,離乳直後(4週齢)から10%のアスタキサンチンを配合した飼料を自由摂取させたパーキンソン病モデルマウス5匹と,アスタキサンチンを配合しない飼料を自由摂取させたパーキンソン病モデルマウス10匹,通常の飼料を自由摂取させた正常マウス10匹を使った。

アスタキサンチン摂取で症状改善,延命効果も
 まずは,アスタキサンチンがパーキンソン病モデルマウスの歩行障害に与える影響を見るため,各グループのマウスが16週齢のときの歩行状態を解析した。実験では,前足に赤,後ろ足に青のインクをつけて歩行させた。その結果,正常マウスでは足跡の横幅が体の横幅とほぼ同じだったが,アスタキサンチンなしのパーキンソン病モデルマウスでは,つま先が外側を向いて足幅が広がり,歩行が乱れ,パーキンソン病特有の歩行パターンが見られた。一方,アスタキサンチンを投与したパーキンソン病モデルマウスでは,歩幅が狭まり,症状が改善した(図1)

図1 アスタキサンチン投与により歩行動作が改善
図1:アスタキサンチン投与により歩行動作が改善


 また,10〜11週齢の各グループのマウスの自発運動を測定すると,アスタキサンチンを投与したパーキンソン病モデルマウスでは自発運動が増加。パーキンソン病の3大症状の一つである活動量の低下についても改善していることがわかった(図2)
 さらに,各グループの生存日数を見ると,通常食のパーキンソン病モデルマウスでは10.2週だった生存日数が,アスタキサンチン投与群で21.5週と倍増。延命効果も確認された(図3)

図2 アスタキサンチン投与により夜間の運動量が増加
図2:アスタキサンチン投与により夜間の運動量が増加

図3 パーキンソン病モデルマウスに対するアスタキサンチンの延命効果
図3:パーキンソン病モデルマウスに対するアスタキサンチンの延命効果


パーキンソン病治療薬としての可能性も
 一方,こうした作用のメカニズムの確認のため,in vitroで,アスタキサンチンがドーパミンニューロンのアポトーシス(細胞死)に与える影響も確認した。実験では,ドーパミンニューロンを選択的に変性除去する神経毒「6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)」でドーパミンニューロンを刺激し,そのときのアポトーシスの指標となる活性酸素種(Reactive Oxygen Species;ROS)レベルを測定。その結果,アスタキサンチン存在下では,濃度依存的にROSレベルが下がった(図4)。またアスタキサンチンは,アポトーシスでROSより下流で働く酵素p-38MAPキナーゼ活性や,caspas-3活性も濃度依存的に抑制した。

図4 ROSレベルを濃度依存的に抑制
図4:ROSレベルを濃度依存的に抑制


 研究を行った白澤教授は,「これらの結果から,アスタキサンチンは,ミトコンドリアを介したドーパミンニューロンのアポトーシスを抑制することが示唆された。また,アスタキサンチンのcaspas-3活性の抑制作用は,caspas-3活性阻害薬であるSB203580に匹敵,あるいはそれを上回るものだった。また,マウスにおいて,症状の改善,延命効果も認められたことから,アスタキサンチンは,今後はパーキンソン病の治療薬としても研究が行える素材ではないかと期待している」と話す。
 なお,白澤教授とヤマハ発動機のグループは,「ドーパミンニューロン死に対するアスタキサンチンのin vitro抑制効果」に関する研究について,7月9日〜11日に行われる第31回日本神経科学大会で発表する予定という。




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