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産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題(8)−最終回
ベンチャー企業創出に関する「知」を集積
産総研の支援プラットフォームは次の段階へ


[2007/02/19]

 「この4年間の活動を通して,産総研にはベンチャー企業創出に関する多くの「知」が集積された。まだ課題はあるものの,ベンチャー企業創出支援プラットフォームは次のステップに踏み出す段階にきたと言える」。こう総括するのは,産業技術総合研究所ベンチャー開発戦略研究センター次長の永壽伴章氏である。産総研は,文部科学省「戦略的研究拠点育成」事業の支援を受け,ベンチャー企業創出の仕組みを作り上げてきた。すでに,その仕組みを通してタスクフォースから30社のベンチャー企業を創出した。
 産総研発のベンチャー企業は,まず起業して何を創るか,それによってどのように社会に貢献するかについて明確な目標を持つ。ベンチャー企業創出支援プラットフォームは,その目標を実現させるための部品(技術シーズなど)と手段(形態,制度)の選択肢を提供している。ベンチャー企業創出支援プラットフォームから多様なベンチャー企業が創出されることによって,同プラットフォームにはベンチャーの起業に関する幅広い「知」が集積されていく。

あらゆるベンチャーの起業形態に対応できるプラットフォームへ
 産総研でベンチャーの起業を目指すタスクフォースには,支援期間の2年を通して多くの知識が集約される。例えば,その知識はベンチャー起業のシーズを製品化するのに必要な技術であったり,対象市場のニーズや顧客情報であったり,ベンチャー起業のビジネス・モデル,事業計画,知財のライセンス契約,法務・財務・資金調達に関する情報などである。契約だけを取ってみても,その数や内容は多岐に亘る。スタートアップ・アドバイザ(SA)として多くの起業案件を手がけ,このプラットフォームを通して生まれたベンチャー企業アイカンタムの社長を務める渡辺純一氏によると,ベンチャーを立ち上げる際には,様々な契約書や覚書を作成する必要があり,複数機関の知財が関係すれば,その数は10種類にも及ぶ場合もあるという。契約締結に至るまでにも,事前調査や契約交渉などさまざまな準備が必要になる。ベンチャー企業創出支援プラットフォームには,こうした個々のタスクフォースの経験がノウハウとして蓄積されていくことになる。
 ベンチャーの起業形態に関する知識も集積される。産総研では,個々のタスクフォースが技術シーズに合わせた最適な事業形態を選択する。個人やベンチャー・キャピタルが資金を提供して起業するケースだけでなく,LLP(有限責任事業組合)という制度を活用して大手企業と共同で起業したケース(図1)や,大学や企業が保有している技術シーズと産総研の技術シーズを複合して起業しているケースも少なくない(図2)。

残る課題を解決し,「知」の社会還元へ
 これまで産総研は,ベンチャー企業創出支援プラットフォームの支援機能や産総研の人事・知財面の制度を改革しながら,ベンチャー起業の仕組みを作り上げてきた。しかし,永壽氏が言うように,まだ課題が残っているのも事実である。
 第一の課題は,経営人材の獲得・育成である。現在,SAという職種を設け,公募によって経営人材を確保している。SA制度そのものは,他に類を見ないユニークな仕組みである。しかも,ベンチャー企業創出に極めて有効な制度であることも分かってきた。しかし,資金面やSAに適した人材面から,SAとして採用できる人数には限りがある。この課題の解決に向けて産総研では,ビジネス・スクールとの連携を通した経営人材の獲得・育成や,ベンチャー創出の実践を通じた経営人材育成プログラムも検討されている。
 第二の課題は,ベンチャー起業後の評価・支援策である。研究成果の社会還元を通して産業の発展に貢献するという産総研のミッションからすると,ベンチャーを生み出すまでの支援だけではなく,ベンチャー起業後の評価・支援策も検討する必要があろう。米国と異なりエンジェル市場が形成されていない日本では,例えば産総研がシードキャピタルの役割を担うことなどが考えられる。ただし現状では,産総研がそのような形で出資するためには,法律の改正が必要になる。
 第三の課題は,開発したベンチャー企業創出支援プラットフォームが他の研究機関へ普及されることである。このプラットフォームには,産総研ならではという部分が含まれている。例えば,前述のSA制度や,年間1000件を越える特許から技術シーズを探索するといった仕組みがそれに当たる。こうした部分をプラットフォームの展開といった目標とどう整合させるかも,今後の課題である。

 産総研はベンチャーの創出を通して産業界に貢献するという目標に向けて舵を切り,その方向へ動き出した。ベンチャー企業創出を通して得た「知の集積」は,産総研が日本全体にイノベーションの輪を広げるためのハブとなる,という産総研理事長吉川弘之氏の「イノベーション・ハブ戦略」成功の鍵を握る。その一方で,今後,産総研がイノベーション・ハブとしての役割を果たしつつ,ベンチャー企業創出を通して得た「知」を広く社会に還元していくことも求められよう。

【図1】LLPの例:エシキャット・ジャパン
LLPの例:エシキャット・ジャパン
LLP(有限責任事業組合)の例として,次世代半導体デバイス材料である炭化珪素(SiC)ウェハのエピタキシャル成長サービスを提供しているエシキャット・ジャパンが挙げられる。同組合は,産総研と電力中央研究所の基礎研究の成果を基に,昭和電工の製造ラインを活用した実用化開発を経て,産総研と電力中央研究所等の個人出資者と,法人としての昭和電工を構成員としたLLPの形態で2005年9月に発足した。基礎研究に従事してきた研究者の貢献を出資比率とは別に評価でき,企業側にも税制面での優遇措置を受けやすいというメリットがある。シーズ段階をまずLLPとして立ち上げ,事業化の見込みができてから株式会社化するというスキームである。


【図2】技術シーズ複合型ベンチャーの例
技術シーズ複合型ベンチャーの例
技術シーズ複合型ベンチャーの例としては,大学や企業が保有している技術シーズと産総研の技術シーズを複合して起業化しているケースが挙げられる。1対1の関係だけでなく,複数の機関の技術シーズを活用する例もある。


産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題
  【第1回】 日本最大級の研究機関「産業技術総合研究所の地殻変動」 [2007年01月09日]
  【第2回】 産総研の「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」の全容が明らかに [2007年01月15日]
  【第3回】 研究機関発ベンチャー起業準備の要諦 [2007年01月22日]
  【第4回】 計測技術のアイカンタム 産総研の計量標準技術の製品化を先導 [2007年01月25日]
  【第5回】 ベンチャー起業前の2年間で事業モデルを徹底的に検討 [2007年01月30日]
  【第6回】 ベンチャー企業は成功神話の主人公ではない,産業構造を変える国の政策の担い手だ [2007年02月06日]
  【第7回】 組織があり,人がいるのではなく,人がいて組織ができるのだ [2007年02月09日]
  【最終回】 ベンチャー企業創出に関する「知」を集積 [2007年02月19日]

記事要点掲載先:日経BPTech-On!/Sillicon Online

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