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産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題(7)
組織があり,人がいるのではなく,人がいて組織ができるのだ
産総研発のベンチャー企業創出について理事長の吉川弘之氏に聞く(下)


[2007/02/09]

 元東京大学総長の吉川弘之氏は,産業技術総合研究所の独立行政法人化に合わせ2001年4月に理事長に迎えられる。同氏は国立研究所時代の問題点を洗い出し,研究成果の社会還元を目的に組織,制度,意識の改革を進めた。その改革の先に,ベンチャー企業創出があった。同氏はいま,「地球環境を劣化させない技術を産総研発ベンチャー企業の中で生かしたい」,と考える。
(聞き手 宮崎信行 小泉孝朗=テクノアソシエーツ)


 いまの日本に重要なのは変革である。産総研も変わる。企業も変わる。産業も変わる。そうした意識から,私は産総研の改革を進めてきた。
 日本の研究組織は,まずこういった研究をすべきという研究の種類を決める。大学で言えば,機械工学科,電気電子学科,情報学科などがある。機械工学科の中には,構造学,構造力学,材料学などがある。こうした学問構造に対して,それに合った研究者を探してくる。私は,産総研の理事長に就任した初日に研究者を前に,こうした構造は一種の蓋であり,その蓋を取ろうと宣言した。その蓋を取ると,そこには3000人の人がいる。その人たちが自ら主体的に組織を作ることが必要であると語った。組織があり,人がいるのではない。人がいて組織ができるのである。産総研の中では,その原則はいまでも生きている。研究者が主体的にテーマを決め,そのテーマに研究者が集まることによって研究ユニットを組織するようになっている。したがって,研究ユニットは従来の学問割りの組織ではない。

研究ユニットにオートノミ(自立性)を与える
インタビュー写真
産業技術総合研究所 理事長
吉川弘之氏
 こうした産総研の目的は産業に役立つことである。それを実現しようとすると,一つの学問だけを追究する組織で実現するのは難しい。例えば,ロボットの開発を考えた場合,機械力学の研究者だけで開発するのではなく,機械力学に加え,人工知能や制御,材料を専門とする研究者が必要になろう。こうした研究者が集まらなければ,ロボットという産業界のコンセプトに合う研究成果を生み出すことは難しい。
 産総研では,このような考え方に基づき研究ユニットを組織した。研究ユニットは大きいもので200人,小さいものだと3人程度だ。このような組織は通常の組織論からすると問題だが,産総研ではそれを許容している。実現すべき産業技術を目標に研究者が集まり,その研究者たちが一つの研究ユニットを組織するからだ。現在,研究ユニットは57あるが,当初の研究ユニットの半分程度は入れ替わった。われわれは,目標に応じてダイナミックに研究ユニットを入れ替えている。組織を固定化させないことが大原則である。
 私は,このように組織された研究ユニットにオートノミ(自立性)を与える決断をした。各研究者に自治を与えたら,産総研という組織が成り立たないという人もいた。しかし,私の考え方は違っていた。研究者が自分の興味に応じて自立的に研究に取り組まなければ優れた成果は生まれない。また,産総研は国のミッションに基づき研究を進めなければならないという人もいた。国のミッションだからこそ研究者に自主性を与えるべきだ,というのが私の考えだ。すべての研究者に研究テーマを指示できる人など存在しない。
 もちろん,研究者に自主性を与えたからといって自分勝手に研究をしてよいというわけではない。そのオートノミは産業の発展を意識したものでなければならない。そこで,私は本格研究という一つの縛りを研究ユニットに与えた。
 本格研究とは,研究ユニットを構成する1/3の研究者が「Nature」や「Science」といった著名な科学雑誌に投稿できる基礎研究を行い,残り1/3が産業界と対面し,その要望を聞き,産業界のニーズにあった製品化研究を行う。基礎研究グループと製品化研究グループの間は,研究が違いすぎてコミュニケーションするのが難しい。そこで,中間に新たな研究グループを置いた。この研究グループが行う研究を第2種基礎研究と呼ぶ。

産総研の構造改革を進め,たどり着いたのがベンチャーの起業
 100年の歴史を持つ産総研には,いろいろな技術的知識が集約されている。例えば,特許だけで1万件もある。それにもかかわらず,極少数の例外を除いては,それらの特許はほとんど産業界で使われていなかった。この膨大な知の集約をどう活用するかが,産総研の大きな課題だった。こうした課題の解決に向けて考えたのが,産総研の技術をベースにした共同研究である。例えば,企業と産総研とのマッチング・ファンドによる共同研究や包括的提携がそれに当たる。現在,三菱化学や住友電気工業など4社とそれぞれ包括的な提携契約を結んでいる。
   次に考えたのがハイテクもの作りだ。製品化できそうな技術に対し,産総研が研究費を提供して研究者に製造技術まで開発してもらうというもの。IPインテグレーションという仕組みも作った。二つ以上のIPを結びつけることによって,一つの製品や技術を作り上げるという仕組みである。さらに,産業変革イニシャティブという仕組みも作った。かつての通商産業省の大型プロジェクトのようなものだ。複数の研究ユニットを集めて,より大きな研究テーマに取り組むプロジェクトである。現在,植物工場,ロボットのミドルウェア開発などのプロジェクトが進められている。
 こうした活動を展開してきたが,私はまだ足りないものあると感じていた。それが,自ら産業界へ出て行く,すなわちベンチャーの起業だった。

地球環境を劣化させない技術をベンチャー企業の中で生かす
 私はいま,ベンチャー企業創出に当たってサステナビリティ(持続性)を一つの評価指標に取り入れたいと考えている。50年前と違ってここまで気候変動が起こると,地球環境を考慮したものへと産業構造を変えていく必要がある。サステナビリティのある産業とは,次世代の資産である地球環境を劣化させることなしに発展する産業を意味する。私は,いまの産業がサステナビリティのある産業構造に向かって重心移動しなければならないと考える。重心移動に役立つ技術が,できるだけ早く現実の技術になって産業界に普及してほしい。産総研の中にはそうした技術が多数あり,その技術を産総研発ベンチャー企業の中で生かしていきたい。

産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題
  【第1回】 日本最大級の研究機関「産業技術総合研究所の地殻変動」 [2007年01月09日]
  【第2回】 産総研の「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」の全容が明らかに [2007年01月15日]
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  【第4回】 計測技術のアイカンタム 産総研の計量標準技術の製品化を先導 [2007年01月25日]
  【第5回】 ベンチャー起業前の2年間で事業モデルを徹底的に検討 [2007年01月30日]
  【第6回】 ベンチャー企業は成功神話の主人公ではない,産業構造を変える国の政策の担い手だ [2007年02月06日]
  【第7回】 組織があり,人がいるのではなく,人がいて組織ができるのだ [2007年02月09日]
  【最終回】 ベンチャー企業創出に関する「知」を集積 [2007年02月19日]

記事要点掲載先:日経BPTech-On!/Sillicon Online

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