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産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題(5)
ベンチャー起業前の2年間で事業モデルを徹底的に検討
市場調査やプレマーケティングを実施


[2007/01/30]

 産業技術総合研究所のベンチャー開発戦略研究センターは,スタートアップ・アドバイザ(SA)が発掘した技術シーズを2年間支援し,事業化していく。2005年12月設立の産総研発ベンチャー企業のモデライズは,この会社設立前の準備期間の2年間を徹底的に事業モデルとプランの構築に費やした。
 「設立後5年以内にIPO(株式公開)するという目標を掲げて,案件の発掘から携わってきた。ITバブルの時代であれば,売り上げがないようなITベンチャーでも資本市場が許容したかも知れない。しかし,今は違う。高い成長性を持つ事業モデルと着実な実績が求められる時代である。新産業の創出につながるような,資本市場から高い評価を得るベンチャーを立ち上げるためにはどのような事業モデルと成長を実現すればよいのかを,強く意識してきた」。こう語るのは,SAとしてモデライズを立ち上げ,現在,同社社長を務める高村淳氏である。

ハイテクベンチャーとして,5年でIPOを目標に
 2003年から産総研でSAとしてベンチャーの起業支援をしてきた高村氏の得意分野は,IT関連。高村氏の経歴もそれを物語る。同氏は京都大学大学院を修了して日本電気に入社し,基本ソフトウェアの研究開発を担当した。その後,スタンフォード大学の客員研究員を経て,さまざまな新規ソフトウェア開発にプロジェクト・マネージャーとして関わった。さらに,米シリコンバレーで約10年間,ソフトウェア,マルチメディア,インターネット,Eマーケティング関連の新規ビジネスのインキュベーションにディレクタとして携わった。自らも日米でベンチャーを立ち上げた経験がある。
 高村氏が赴任していた当時のシリコンバレーでは,ベンチャー企業は上手にビジネスプランのプレゼンテーションを行うことによって,アイデア段階でも多数のエンジェルやベンチャー・キャピタルから資金を調達し,研究開発を行い,良質な人材を確保できた。これによってベンチャーの成長スピードは加速化し,短期間でIPOに至った例も多数ある。高村氏は後に日本に帰国し,産総研のSAとなるが,そのとき実感したのは,日本におけるエンジェル層の薄さと,ベンチャー・キャピタルがアーリー・ステージのITベンチャーを見る眼の厳しさだった。だからこそ,5年以内にIPOするという目標を掲げて,起業準備期間のタスクフォース中にその実現に至る過程を厳密にシミュレーションし,試行錯誤の助走期間を終えて価値をある程度高めてから会社を設立したのである。

複数の事業モデル仮説の中からASPサービスを選択
インタビュー写真
インタビューに答える高村社長
 高村氏が注目したのは,人間の行動や知能を「ベイジアンネット」という確率ネットワークでモデル化し,これまで解決が難しかった問題を解くといった技術である。
 この技術には産総研で10年間改良・拡張が加えられた。これを利用するベンチャー企業のビジネス・モデルはいくつか考えられた。ソフトウェア販売,ソリューション提供,アプリケーション・サービス・プロバイダ(ASP)サービスなどである。また,ターゲットとする市場もいくつかの選択肢が考えられた。医療用途など限定的かつ専門的な領域での分析市場と,消費者を対象とする分析市場などである。
 高村氏は徹底した市場調査や関連他社の分析を行い,事業モデルを構築した。関連ソフトウェアの販売はまだ大きなビジネスになっていない。しかも,このようなソフトウェアの場合,購入者が自力でシステムを構築・運用するには専門的なノウハウが必要となる。このため,同氏はソフトウェア販売での事業化は困難と考えた。また,ソリューション提供も,多くの技術者を集める必要がある労働集約的なビジネスであることから急成長するハイテクベンチャーに向いていないと判断した。こうした検討の結果,消費者の行動を予測する高速エンジンをサーバに搭載してネットワークを通じてユーザーにサービスを提供するASPサービスという事業モデルを採ることになった。「ASPサービスならば,ベンチャー企業として売り上げと経費のバランスをあるべき姿に最適化できる」と高村氏はみた。
 その一方で,売り込み先の市場ターゲットとして,一般消費者に対して適切な商品等を推薦する,いわゆる知的推薦(分析)市場を選んだ。この市場は今後急成長が期待される分野である。売り上げが同じ企業でも,成長が期待される市場を対象とする場合は,そうでない市場を対象とする場合より,企業価値が高く評価され,資金や人材の調達が容易になると判断したからである。企業価値の向上は,最終的に株価に反映される。高い株価によって,より多くの資金を調達することが可能になる。それによって事業展開も加速できる。ベンチャーは対象市場を絞り込んでリソースを集中することが重要で,他の市場への参入は,次の段階で検討すればよい。このようにして,高村氏はモデライズの事業モデルを描いたのである。

モデライズの技術は,ITの次世代を切り開く可能性も
 モデライズは,現在,人間の行動や知能をベイジアンネットという確率ネットワークでモデル化し,人間が日々直面している問題でありながら未だコンピュータでは処理が難しいさまざまな問題を解決するサービスを提供している。例えば,(1)必要な情報やデータが完全には入手できないような日常の状況で,最善の問題解決案(予測,診断,推奨,判断等)を提供するサービス,(2)問題解決のアルゴリズムやプログラム手法がいまだ発見されておらず,人間が過去の経験・データから経験則に基づき確率的に最適な判断しているようなケースに対して解決案を提供するサービスなどである。
 「人工知能技術の期待の星であるベイジアンネットを利用して,個人や集団の行動をモデル化する。顧客の購買行動をモデル化することもできる。このモデルを使ってシミュレーションすることによって,個人や集団の行動を予測したり,顧客に商品を推奨したりすることが可能になる。開発した知的推薦エンジンは,協調フィルタリングなどの現在の推薦エンジンに取って代わる次世代エンジンである」(高村社長)
 具体的には,こんな使い方がある。予定していたイベントが中止になって予定を立てられずにいる人が,お台場で今の状況や気分を携帯電話に打ち込む。するとベイジアンネットが最適な情報を案内してくれる。この使い方は,NHK「おはよう日本」で次世代推薦エンジンのデモとして紹介された。なお,このデモは,産総研とKDDI研究所との共同研究によって生まれたものだ。この推薦エンジンは,単なる購買データだけでなく,購買理由,各種アンケート,インタビュー結果,個人データ,商品データなどの情報を統合してモデル化し,そのモデルを元にシミュレーションすることによって最適情報を提供する。いったんモデルが完成すると,ベイジアンネットのモデルとエンジンがシミュレーションしてくれる。このサービスを用いると,無限の可能性が広がる。現在,ネットでの書籍購入などでは,過去の購買データから利用者にお勧め書籍を推薦するサービスを行っている。しかし,書籍以外の多数の商材を推薦できるような柔軟性・インテリジェンスはない。一方,ベイジアンネットを使った推薦エンジンは,購買理由等の深い知識をモデル化しているため,より的確な情報を消費者に提供できるというわけだ。情報が氾濫するインターネット上で情報を能動的に「検索」するエンジンがこれまでは主流だったが,これからはその個人が興味ある情報が適切なタイミングで受動的に提供される気の効いた「推薦」エンジンが台頭するとの声が広がりつつある。
 「ベンチャー企業は,事業モデルや対象市場の間違いによる失敗に陥りがちだ。必要な試行錯誤を経て事業プランをじっくり練れたタスクフォースの2年間は,極めて貴重な時間だった。モデライズを成功に導く確信にもつながった」と高村氏は語る。モデライズは「設立後5年以内にIPO」という所期の目標に向かって事業が順調に拡大している。

産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題
  【第1回】 日本最大級の研究機関「産業技術総合研究所の地殻変動」 [2007年01月09日]
  【第2回】 産総研の「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」の全容が明らかに [2007年01月15日]
  【第3回】 研究機関発ベンチャー起業準備の要諦 [2007年01月22日]
  【第4回】 計測技術のアイカンタム 産総研の計量標準技術の製品化を先導 [2007年01月25日]
  【第5回】 ベンチャー起業前の2年間で事業モデルを徹底的に検討 [2007年01月30日]
  【第6回】 ベンチャー企業は成功神話の主人公ではない,産業構造を変える国の政策の担い手だ [2007年02月06日]
  【第7回】 組織があり,人がいるのではなく,人がいて組織ができるのだ [2007年02月09日]
  【最終回】 ベンチャー企業創出に関する「知」を集積 [2007年02月19日]

記事要点掲載先:日経BP.jp

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