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産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題(4)
計測技術のアイカンタム
産総研の計量標準技術の製品化を先導


[2007/01/25]

 日本の産業界が国際競争力を維持・強化するために,いま最も求められていることの一つが日本発の技術標準を国際的に普及させることである。2006年12月には,日本政府も国際標準総合戦略を取りまとめるなど,技術標準の国際化が日本の大きなテーマとなっている。
 2004年11月に設立されたアイカンタムは産業技術総合研究所の技術移転ベンチャーで,産総研で開発されたオリジナルな計量標準技術を国際的に普及させることを目指している。その技術は,同社社長の渡辺純一氏が自ら産総研内を回ってベンチャー起業の技術シーズとして発掘したものである。同氏は,この技術を産総研のハイテクベンチャー企業創出支援事業に応募し,同事業から2年間の支援を受けた後にベンチャーとして起業した。アイカンタムは,産総研にある国際展開が可能な技術の事業化で先導的な役割を果たしている。同社の設立は,産総研のベンチャー企業創出支援事業のプラットフォームが有効に機能した例といえる。

オリジナルな計量標準技術を国際化したいという強い思いから起業
 アイカンタム社長の渡辺氏は,大学を卒業後,伊藤忠技術コンサルタントに入社し,海外資源エネルギー開発プロジェクトの企画立案と事業化可能性評価を担当した。その後転職したが,転職先でもコンサルタントとして新技術の事業機会の探索,新規事業の企画やマーケティングに携わってきた。こうした経験を生かし,渡辺氏は01年に産総研のスタートアップ・アドバイザ(SA)となった。
 そこで出会った技術は,超電導を応用した8桁精度の任意電圧発生システム(PJVS:プログラマブル・ジョセフソン電圧標準システム)であった。「そのシステムを使った電圧の計測精度に関して,国際的に高い評価を受けていることを研究者から何回も聞かされた。」(渡辺氏)PJVSを開発した研究者には,同技術を,簡便な2次標準器を必要とする企業・大学や,国際的にトレーサブルな自国の標準技術を持たない開発途上国などに普及させたいという強い思いがあった。しかし,同技術は極度に専門化しており,開発した研究者でなければその製品化に向けた技術の成熟化は難しいという問題を抱えていた。しかも,市場規模が小さいため,企業も事業化に二の足を踏み,企業へのライセンス供与といった事業モデルは成立しない。また,産総研内には製造設備がなく,システムの製品化もできなかった。この標準電圧発生技術を国際的に広げていきたいという強い思いがあるにもかかわらず,事業化の受け皿となる組織が見つからなかった。こうした状況を打開するため,同技術を開発した研究者と渡辺氏は,ハイテクベンチャー企業創出支援事業のタスクフォースに応募し,ベンチャーを起業する道を選んだ。「IPOするほどの大化けは期待できない。しかしこうした技術の事業化こそ,産総研の使命の一つである」と渡辺氏は言い切る。

タスクフォース期間中の仮説検証が生んだ「3本の矢」という事業モデル
インタビュー写真
インタビューに答える渡辺社長
 産総研も,ハイテクベンチャー企業創出支援事業の採択検討段階から,この案件を事業化する意味の大きさを認識していた。だからこそタスクフォースとして採択し,2年間の支援を通して事業化に対する市場性の調査や事業モデルの仮説・検証を繰り返す機会を与えた。渡辺氏は,支援期間中に「ベンチャー企業として成功するにはどういう事業モデルが考えられるか」,研究者をはじめとしたタスクフォースのメンバーや多くのSAと議論した。その結果,同氏が辿り着いた結論は「PJVSという技術シーズ一つだけでは市場が飽和しやすく,利益の再投資先が見つけ難い。PJVS以外にも製品があれば市場に連続的に投入することでビジネス化できる」というものだった。幸い,同じ研究部門に製品化できそうな技術が三つあった。「1本の矢では事業化できないが,3本の矢があれば,それを連続的に投入することで事業として成長できる」(渡辺社長)。こうしてアイカンタムの事業ビジョンが出来上がった。
 現在,アイカンタムが抱える製品は三つ。第一の製品が,前述のPJVS。小数点以下8〜9桁の電圧を高精度に測定するもの。通常のジョセフソン素子を用いた電圧標準は,動作温度が4K(絶対温度)であることから,冷却するためには液体ヘリウムが必要となり,製造や貯蔵コストが高く,取り扱いに専門的な知識を必要とする。しかしPJVSは,液体ヘリウムを使わずに,10Vまでの範囲で任意の電圧を高精度,かつ短時間で発生させることができる。2次標準器として極めて低コストでかつ簡便に利用でき,しかもオンサイトで測定できるほどコンパクトである。このため企業や大学で広く使われることが期待できる。
 PJVSを国際展開するため,渡辺氏はタスクフォース期間中に提携先・顧客候補開拓などのマーケティングを実行した。同氏は米国のNIST(国立標準研究所)や,ドイツのPTB(国立技術工学研究所)に働きかけ,産総研発のPJVSをアピールしてきた。また,東南アジアの国の国際入札にも参加し,PJVSの採用へ結び付けた。
 第二の製品は,現在アイカンタムの主力となっているSQUID磁束計用ヘリウム3冷却システム「iHelium3」である。この製品は,これまでカバーできなかった2K以下の極低温で試料の磁化を精密に測定する装置で,同社のCOOである白川直樹氏が自らの研究のために開発したものである。この装置は05年春から既に6台販売している。06年6月に同分野の商品を国際的に販売する日本カンタムデザインと提携し,海外市場への本格的な展開も視野に入った。
 第三の製品「AC-DCトランスファー標準システム」も,これまで欧米企業からの輸入に頼っていた分野の計測装置で,欧米頼みという状況を打破するために製品化した。校正機関をターゲットに販売を開始している。

「産総研の技術を国際化できる場を提供したい」
 タスクフォース期間中に,渡辺氏は事業戦略を更に練った。一つは,自社では生産設備を持たず,外部企業に完全に生産を委託し,アイカンタム自身はファブレス・メーカーとなるビジネス・モデルであった。製品使用に付帯するサービス業務はアイカンタムのビジネスとして行う。これによって,固定費を極力減らすと同時に,利用者の利便性を高める。
 日本カンタムデザインとの事業提携も,こうした戦略の一環といえる。世界中にネットワークを持つ有力企業との販売提携は,国際競争力を高めるうえで極めて有効である。提携は更に一歩進み,増資の引受先にもなっている。
 アイカンタム設立以来,産総研へのロイヤリティの支払いは,売り上げの増加に応じて増えてきた。アイカンタムの事業は大きなアップサイドのある事業ではないものの,同社の着実な歩みは,「ベンチャー起業化によって産総研内の技術シーズを社会に還元する」という産総研のミッションを確実に果たしていると言えよう。さらに,アイカンタムによる計量標準技術の事業化は,国家計量機関として計測器,計量器に関する我が国の国家標準の供給を担ってきた産総研がこれまで培ってきた高度な計量標準技術を,次々と国際化していくための道筋を付けたとも言える。渡辺氏の言葉も力強い。「産総研の持つ高度な技術を,これからも続々と製品化・国際化できるよう励みたい」(渡辺氏)。


産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題
  【第1回】 日本最大級の研究機関「産業技術総合研究所の地殻変動」 [2007年01月09日]
  【第2回】 産総研の「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」の全容が明らかに [2007年01月15日]
  【第3回】 研究機関発ベンチャー起業準備の要諦 [2007年01月22日]
  【第4回】 計測技術のアイカンタム 産総研の計量標準技術の製品化を先導 [2007年01月25日]
  【第5回】 ベンチャー起業前の2年間で事業モデルを徹底的に検討 [2007年01月30日]
  【第6回】 ベンチャー企業は成功神話の主人公ではない,産業構造を変える国の政策の担い手だ [2007年02月06日]
  【第7回】 組織があり,人がいるのではなく,人がいて組織ができるのだ [2007年02月09日]
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記事要点掲載先:日経BP.jp

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