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産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題(3)
研究機関発ベンチャー起業準備の要諦


[2007/01/22]

 「ベンチャー企業を創出し,その貢献を世の中に問うというのは,非常にチャレンジングなことである。普通に企業に居たら考えられないようないくつもの障害や制約がある。だからこそ,複眼的な視座からの評価,戦略策定が重要となる」。こう語るのは,産業技術総合研究所のベンチャー創出・支援研究事業でスタートアップ・アドバイザ(SA)を務める野村哲雄氏。SAとは,産総研が外部から採用する専門分野を有する事業化経験者。SAは同研究所内の多数の技術シーズから,ベンチャー起業化に有望な技術シーズを発掘し,技術分野の市場動向や技術動向,競争力の調査を行い,研究者と共同で製品・サービスを定義し,その事業戦略を策定する。(関連記事)今回,SAの藤田和博氏,野村哲雄氏,三野哲也氏の3氏に日頃の活動や意識を語ってもらった。

3氏が強調するのは「技術を元にした事業の市場性」
インタビュー写真
取材に応える3氏
左から順に三野哲也氏,藤田和博氏,野村哲雄氏
 技術シーズを元にしたベンチャー起業化の準備段階で,3氏が異口同音に強調するのは「技術を元にした事業の市場性」調査活動の重要性である。SAとしての業務の中で約70%はこの調査に充てているという。
 「ベンチャー起業後数年で10億円以上の売り上げが見込め,将来的に売り上げが100億円に達する可能性があるか,どうかが一つの目安となる」(藤田氏)。それには「大手企業が手をつけないニッチ市場をターゲットにする技術を見つける必要がある。また,計量標準や計測機器などのように,売り上げはさほど大きくならないが,オンリーワンの製品・サービスとして世の中の役に立つものであれば,ベンチャー起業を検討する。」(野村氏)。「タスクフォース期間中に試作品を持って販売候補先や提携候補先を回ることは基本であり,それによって市場関係者からのフィードバックを得る。そのフィードバックを生かし,改善を加えていかに次のステップにつなげられるかが,ベンチャー起業化の判断基準になる」と三野氏は,その重要性を指摘する。
 一方で,「市場の開花時期と技術の完成度が上手く合致しているかどうかも非常に重要である」(藤田氏)。産総研に限らず,大学などの研究機関にある技術シーズは,技術的な先進性には富んでいることが多いが,市場としてそれを受け入れる素地ができているとは限らない。大企業であれば周辺も含めて開拓することは可能だが,ベンチャー企業の場合には,1社でできることは限られる。対象とする市場に対して,リソースに応じた事業モデルや技術開発ロードマップを構築していかなければならない。「産総研の場合,準備期間は最大で2年と定まっている。SAとしては,この2年間で市場の受け入れ準備が整うか,そしてその時に技術の独自性が光るか,事業モデルとして無理がないか,などを猛烈に検討する」(藤田氏)。それには,企業時代に培った人脈や,経験が役に立つ。
 その一方で,「準備期間が2年間と定められているため,不都合を感じる時もある。優れた技術シーズでも,市場に受け入れられるのに時間がかかりそうな場合がある。そんなケースでは定期的に研究者と情報交換し,時期を見計らって起業化する必要がある」と藤田氏は言う。
 市場性調査以外の重要な準備業務として,品質・原価・製造工程などの生産管理の視点を取り入れた研究開発のチェックに約30%近くの時間を当てていると言う。「2年間に事業化に踏み切れるだけの試作品を完成させられるか,あるいは製品に仕上げられるかどうかが重要である。研究レベルなら実証品を1個作り,動作などを確認できればそれで済む。しかし,事業ではそうはいかない。1000個,1万個,同じものを作らなければならないからだ。「信頼性」と「再現性」が,ベンチャーの起業が可能かどうかを判断する極めて重要な要素となる。」(野村氏)こうした活動の結果,SAは研究者との対話が増え,事業化に向けた共通の認識も醸成されるという。このようにベンチャーの起業化で重要な役割を演じるSAは,担当したベンチャー企業に出資も行い,経営者になることもある。出資した場合には,一定期間の後に産総研との雇用契約は切れる。「SAと似たような制度は他にもあるが,仲人のような立場で起業を支援する仕組みになっている。産総研の仕組みでは,SAは結婚する当事者のような立場である」と野村氏は言う。「SAはベンチャー企業に出資もする。経営者としても参画する。研究者と一緒の船に乗っているのだというSAの気概は,研究者にも伝わる」(野村氏)。SAは,市場調査や顧客候補の開拓の結果に基づき,市場ニーズに合わせて技術の開発方向を変えさせることさえある。こうしたことができるのは,SAが前述のような立場・姿勢を貫くからだ。

幅広い分野から事業経験を有するSAを採用,経営人材のプラットフォームを構築
 産総研は,こうした重要な役割を担うSAに必要な素養として,研究開発の経験があり特定分野に詳しいこと,技術開発成果の事業化経験を有すること,国際性を持ち海外展開を視野に入れたビジネスを構築できること,コーポレート・ベンチャーを含む企業経営の経験があること,ベンチャー企業の経営に意欲があることなどを挙げている。
 また,ベンチャー開発戦略研究センターは,この5年間のベンチャー創出・支援研究事業の運用経験を通して,SAに適する人材は次のような資質を持っていると強調する。

(1) 雑事から戦略策定まで一人で何役もこなしていくSelf-Independentな精神
(2) 技術者,国内外の企業やその他様々なステークホルダーと十分にコミュニケーションできる能力
(3) 人生リスクをかけられる気概


 産総研は,過去5年の戦略的研究拠点育成事業の中で,ベンチャー企業創出のプラットフォームとしてSAの雇用退職に関する規程を整備し,同研究所の研究分野に対応して,エレクトロニクス,IT,バイオテクノロジ,ナノテクノロジ,環境・エネルギーなど幅広い分野から総勢21人のSAを採用してきた。現在,産総研には11人のSAが在籍している。
 しかしながら,豊富な経験を有するSAといえども一人ですべての業務をこなせるわけではない。「SA間でも頻繁に情報交換を行う。他のSAから市場に関するアドバイスを受けたり,苦手な財務面でのアドバイスを受けたりと,産総研が多彩な人材をSAとして採用していることによるメリットは大きい。」(三野氏)
 産総研では,SA制度の導入によって有望な研究成果に「経営感覚」という新たな軸を加えることが可能になった。その結果,埋もれていた技術シーズを発掘し,より多くの研究成果を確実に社会還元させる仕組みが整いつつある。その一方で,今後こうした仕組みを他の公的研究機関や大学などの外部機関へ展開するには,起業前準備活動の一部を,機能としてより明確にして,高度化,有効化していく体制を構築することも必要になろう。

産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題
  【第1回】 日本最大級の研究機関「産業技術総合研究所の地殻変動」 [2007年01月09日]
  【第2回】 産総研の「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」の全容が明らかに [2007年01月15日]
  【第3回】 研究機関発ベンチャー起業準備の要諦 [2007年01月22日]
  【第4回】 計測技術のアイカンタム 産総研の計量標準技術の製品化を先導 [2007年01月25日]
  【第5回】 ベンチャー起業前の2年間で事業モデルを徹底的に検討 [2007年01月30日]
  【第6回】 ベンチャー企業は成功神話の主人公ではない,産業構造を変える国の政策の担い手だ [2007年02月06日]
  【第7回】 組織があり,人がいるのではなく,人がいて組織ができるのだ [2007年02月09日]
  【最終回】 ベンチャー企業創出に関する「知」を集積 [2007年02月19日]

記事要点掲載先:日経BP.jpTech-On!/Silicon Online

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