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産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題(2)
産総研の「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」の全容が明らかに


[2007/01/15]

 日本最大規模の研究者数を抱える独立行政法人産業技術総合研究所は,研究成果の社会還元策の中核事業として,産総研発のベンチャー起業に積極的に取り組んでいる。この取り組みが本格的にスタートしたのは2002年。同事業が文部科学省の「戦略的研究拠点育成事業」として採択され,それに伴い「ベンチャー開発戦略研究センター」が設立されてからである。同センターが設立されてすでに5年が経過した。現在,産総研からは年間十数社のベンチャー企業が生まれている。こうしたベンチャー企業創出の仕組みの中心に,同センターが5年かけて構築してきた「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」がある(図1)。
 一般的な補助金による公的なベンチャー支援策ではすでに起業したベンチャーに対して研究開発資金が提供される。産総研の場合,その名が示すようにベンチャーの起業前の支援である。年1回募集される「ベンチャー創出・支援研究事業」に提案が採択されれば,最長2年間,研究開発資金が提供され,組織的な支援が行われる。そして2年後,その間の活動成果を踏まえてベンチャーの起業の可否が判断される。起業前支援を行う同様の制度は他にもあるが,産総研の特徴は,外部機関への展開を考慮してプラットフォーム化していることと,有望な研究成果に外部の「経営感覚」という新たな軸を加えている点にある。

図1:研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム
産業技術総合研究所が構築した産総研発のベンチャー企業創出の仕組み

図1:研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム
【拡大図】をご覧になりたい方はこちらをクリックしてください。
産総研のインタビューを基にしてテクノアソシエーツにて作成

ベンチャー起業適合検討,
事業化戦略仮説検討,組織化の3段階で管理

 産総研の研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォームは3つのステージから成る。(1)技術シーズのベンチャー起業適合度検討段階(2)事業化戦略仮説検討段階(3)資源の獲得・組織化段階である。
 技術シーズのベンチャー起業適合度検討段階ではまず,年間2000件を越える産総研の特許出願の中から,ベンチャーの起業に適している技術シーズを調査する。ここで大きな役割を果たしているのがスタートアップ・アドバイザ(SA)である。SAは産業界出身の十分な経験を積んだ事業化活動に関する実務家であり,産総研の職員として採用される。SAが他のベンチャー支援制度のアドバイザやコーディネータと大きく違う点は,ベンチャーが起業されるときに担当したベンチャー企業の経営者として起業に参画することにある。このためSAは,単なるアドバイザやコーディネータといった第三者の視点ではなく,過去の経験や人的ネットワークをフルに活用して当事者の視点から一つひとつの案件をスクリーニングすることになる。
 その際のスクリーニング基準として重要なのが,技術シーズがベンチャーの起業向きかどうかである。産総研には,研究成果を社会に還元する手段としてベンチャーの起業以外にも,ライセンスや企業との共同研究がある。SAは自分の得意な分野で成功見込みを判断することになる。ベンチャー起業向きの技術シーズとは,例えば,事業化によって将来大きな市場を期待できるが,現状では既存の大手企業にとって「リスクが高い」と判断されるようなケースである。また計測標準など社会基盤技術も大手企業が手を出し難い分野であり,産総研らしいベンチャー起業のテーマといえる。こうした技術は国際競争力という観点から極めて重要であり,標準として確立させて普及を図らなければならない。ベンチャーであれば,こうした活動を機動的に展開できる。
 次にSAは,選定した技術を開発してきた研究者と共同で起業化モデルを策定し,ベンチャー創出・支援研究事業に応募する。応募前の働きかけを通じて,研究者の起業マインドを高めることもSAの重要な役割の一つである。研究者自身がベンチャー起業の気概を持たなければ,研究開発型ベンチャー(産総研ではハイテクスタートアップスと呼ぶ)の成功は覚束ないからだ。
 ベンチャー創出・支援研究事業には毎年30〜40件の応募がある。それをベンチャー開発戦略研究センターや知的財産部門,産学官連携推進部門など複数の部署の関係者と,当該案件に関与していないSAなど総勢10人近い評価チームが審査する。審査に当たっては明確な評価基準を設けている。応募者評価,知財評価,研究能力評価,市場可能性評価などである。応募者評価は,支援期間中に技術開発チーム長として主導的立場を担い,ベンチャー起業時に経営陣に参画する資質があるかどうかを評価する。知財評価ではベンチャー起業に必要な新規性や独自性があるかどうかを評価する。研究能力評価ではこれまでの研究実績や可能性を総合的に評価する。市場可能性評価では製品化の可能性や社会的ニーズおよび将来的な市場規模を評価する。このほかにも,ベンチャー起業後の経営人材の有無や産総研内外のファンドへの採択の有無なども評価基準となる。この審査で一定の評点を越えた案件だけが支援対象となり,次の段階に進むことになる。採択率の実績は3割程度である。
 事業化戦略仮説段階では,SAと研究者がタスクフォースを結成する。研究者は主に技術の動向などを踏まえつつ試作品を開発し,事業化に不可欠な特許などの知的財産を整備する。その一方でSAは市場調査を行い,顧客候補や事業提携先候補を開拓する。両者が事業化に向けて緊密に連携することにより,起業化の方向が適切に定まり,スピードが加速される。ベンチャー開発戦略研究センターは,こうした起業化活動に必要な資金を提供し,組織的な支援を行う。支援決定後は定期的に起業化の進捗状況を把握し,中間段階(1年後)で支援継続の評価を行う。
 タスクフォースは資源の獲得・組織化段階でいよいよ起業準備に入る。起業チームを組織化し,資本政策や事業運営組織の構築,研究開発体制・設備の確保などを検討する。この段階で,当事者も含めてベンチャー開発戦略研究センターで,起業が可能かどうかを判断する。その際の判断基準となるのが,市場ニーズに適合しているか,技術が製品化レベルまで達したか,ベンチャー起業の基となる知的財産は整備されたか,資金やリソースの調達が可能かなどである。この段階で起業に至らず,研究開発段階に戻るケースもある。

再チャレンジ可能な仕組
 産総研は,こうした仕組みを円滑に運用するために制度面での改革も行った。前述のSA採用制度もその一つである。特に効果的だったのは,研究者が挑戦しやすいように配慮した人事制度改革である。研究者がベンチャー起業の準備に専心すれば,結果的に論文発表数などに影響が出る。研究者に対する評価指標として学究活動を重視していたころは,評価が落ちることを嫌って自分の開発している技術をベースにベンチャーを起業しようとする研究者は少なかった。そこで産総研は,ベンチャー起業に挑戦する研究者に対しては,論文発表数などを評価指標から外すなどの制度改革を行った。しかも,2年間後に起業を中止することになっても人事評価に反映せず,再度ベンチャー起業にチャレンジできるようにもしている。この制度の下では,研究者は2年間,起業前の準備活動に専心できる。こうした人事制度について,「志のある研究者を後押しする非常に画期的な試みである」(大学技術移転協議会の前事務局長で,早稲田大学教授の野尻昭夫氏)と評価する向きは多い。
 産総研は,人事制度以外にもいくつかの制度改革を実施している。その一つに特許に関する制度改革がある。産総研の研究者が発明した特許の所有権は産総研に帰属するが,その研究者がベンチャー企業を設立した場合,そのベンチャー企業には特許ライセンスの契約金が免除される。必要に応じてサブライセンス権を付与することもできる。ベンチャー企業が,産総研の施設や設備を利用することも可能で,利用料も割引料金が設定されている。さらに,財務や法務に関する専門サービスも継続的して受けられる。このほか,利益相反に起因する弊害の防止策やSAの株式所有・兼業等に関するガイドライン,ベンチャー起業に取り組む研究者の兼業や倫理に関するガイドラインも整備した。

起業効果は複数の指標で検証
 仕組みの構築から4年間で,既に78社のベンチャー企業が産総研から創出されている。ベンチャー開発戦略研究センターでは,売上高や雇用者数に見る社会貢献度,企業との事業提携による社会普及度など複数の視点からベンチャー創出の社会経済的効果を検証するとともに,産総研がベンチャー企業とライセンス契約を結んだ知的財産の数や,ベンチャー企業からの実施料収入によって技術移転の効果を検証している。「まだ安定的に黒字化しているところは少ないものの,各社とも売上は順調に伸びており,今後期待が持てる企業が多い。また,技術移転の視点からは,第一段階の指標であるライセンス知財数,第二段階の指標である実施料収入ともに伸びている。産総研発技術移転ベンチャーへの知財ライセンス契約数は,4年前と比較して8倍以上に伸びており,産総研全体の契約数の約15%(2005年度)を占めている。併せて,実施料収入も増加しており,2005年度には2千万円を超えた。産総研の研究成果がベンチャー企業に移転され,具体的な製品やサービスとして社会に送り出され始めていることを示している。さらに,産総研発ベンチャー企業が市場ニーズの視点から,産総研内部の研究に対して有意義なフィードバックをしてくれるといった期待もある。ベンチャーを起業した研究者から新たな視点を与えられることで,産総研全体がイノベーションを生み出す中核拠点となっていくことが期待される。」(ベンチャー開発戦略研究センター)。

産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題
  【第1回】 日本最大級の研究機関「産業技術総合研究所の地殻変動」 [2007年01月09日]
  【第2回】 産総研の「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」の全容が明らかに [2007年01月15日]
  【第3回】 研究機関発ベンチャー起業準備の要諦 [2007年01月22日]
  【第4回】 計測技術のアイカンタム 産総研の計量標準技術の製品化を先導 [2007年01月25日]
  【第5回】 ベンチャー起業前の2年間で事業モデルを徹底的に検討 [2007年01月30日]
  【第6回】 ベンチャー企業は成功神話の主人公ではない,産業構造を変える国の政策の担い手だ [2007年02月06日]
  【第7回】 組織があり,人がいるのではなく,人がいて組織ができるのだ [2007年02月09日]
  【最終回】 ベンチャー企業創出に関する「知」を集積 [2007年02月19日]

記事要点掲載先:日経BPTech-On!/Sillicon Online

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