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産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題(1)
日本最大級の研究機関「産業技術総合研究所」の地殻変動
産業ニーズを意識した研究テーマ設定やベンチャーの起業へ



[2007/01/09]

 独立行政法人産業技術総合研究所の研究者の意識が大きく変わった。研究テーマの設定や方向付けに,産業界のニーズを強く意識するようになった。しかも,事業化可能な成果が上がった場合には,積極的にベンチャーを起業するという意思を産総研の研究者が持ち始めた。日本最大級の研究機関である産総研で大きな地殻変動が起こりつつある。
 産総研が,2006年5月に同研究所の研究者を対象に実施した「産総研研究者の意識改革状況に関するアンケート調査」(有効回答数609人)によると,「産業界のニーズを意識した研究テーマの設定や方向付けをしていますか」という質問に対して,83.4%が「はい」と回答している。また,「どのようなスタンスで知財創出に努めていますか」との質問に対して,48.9%が「産業界での活用可能性を十分考慮した上で知財創出に努めている」と回答した。5年前の状況と比較して,産総研の研究者の意識は,自らの研究成果を産業応用に結びつけようとする方向に変わっている。これを裏付けるように,民間から受け入れる研究資金の額が3億円から32億円へと1桁増加した。
 さらに,ベンチャーを起業して自らの研究成果を産業界に役立てようとする研究者も増加してきた。「ベンチャー創出により事業化が可能な研究成果が上がった場合には積極的にベンチャーを創出したいと思いますか」という質問に対して,32.5%の研究者が「はい」と回答している。

「持続的発展可能な社会の実現」と
「研究成果の社会還元」の要求に応える

 こうした変化の背景には,政府の産業政策の転換がある。日本は,1980年代を通して大企業を中心に欧米先進産業に対するキャッチアップ型の政策を取り続けてきた。その結果,いくつかの分野で日本企業がトップに立った。その後バブル崩壊を経験し,日本経済は「失われた10年」と呼ばれる長期の低迷状態へと迷い込む。この間,日本政府はグローバル・スタンダードの名の下に,金融,産業,行政の構造改革や規制緩和を迫られる。こうした改革路線の中で,政府は大企業一辺倒の政策から,新産業を創造する新たな担い手としてベンチャー企業の創出へと舵を切る。
 変化の激しい電子・情報産業にあって,過去の歴史を振り返えれば,新産業の創出にベンチャー企業が極めて大きな役割を果たしていることがわかる。新産業の創出でベンチャー企業に期待がかけられる理由として,大企業の経営スピードが産業の変化に合わなくなってきた点や,必ずしも対象分野の初期市場が大企業の期待する規模に達しない点などが指摘されている。
 米国ではすでに80年代,日本の台頭によって沈んだ産業の復権をかけ,ベンチャー企業の育成策が展開された。その結果,新たな産業の創出や産業の競争力強化に結び付いた。こうした海外で成功したベンチャー企業の育成策を研究・分析しつつ,日本政府は90年代後半から矢継ぎ早にベンチャー企業の育成策を打ち出した。例えば,1995年の中小企業創造法,1998年の新事業創出促進法,投資事業有限責任組合法などである。その一方で,2001年には大学発ベンチャー1000社構想,いわゆる「平沼プラン」が打ち上げられ,大学向けに多くの支援策が実施された。2004年には,国立大学が独立行政法人へ移行し,これまでと比べて大学の自主性が尊重され,自由な運営ができるようになった。その結果,大学からベンチャー企業を創出しやすくなっている。
 こうした日本の産業政策の流れの中で,産総研も2001年に各省庁の諸機関とともに先陣を切って独立行政法人となり,「持続的発展可能な社会の実現」を目標に,「研究成果の社会還元」が強く求められるようになっていった。

産総研挙げての改革,
中心に「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」あり

 産総研では,独立行政法人化に合わせ2001年4月に元東京大学総長の吉川弘之氏を理事長に迎え,国立研究所時代の問題点を洗い出し,研究成果の社会還元を目的に組織,制度,意識の改革が進められた。
 組織改革としては,文部科学省「戦略的研究拠点育成」事業に提案・採択され,2002年10月に設立された「ベンチャー開発戦略研究センター」が挙げられる。研究成果の社会還元の手段として,それまでのライセンス,企業との共同研究に加えて,新たにベンチャー企業という出口が設けられた。理事長の吉川氏自らがセンター長を務め,産総研発のベンチャー企業の創出および「研究開発型ベンチャー企業創出のプラットフォーム化」を目指した。
 制度改革としては,産総研の研究を「第1種基礎研究」,「第2種基礎研究」,「開発」という三つのステージに分け,第1種基礎研究から開発へと産業応用の出口に至る流れを明確化したことが挙げられる。ここで言う第1種基礎研究とは知識の発見・解明を目指す研究,第2種基礎研究は異なる分野の知識を幅広く選択,融合・適用する研究と定義している。開発は,第1種基礎研究,第2種基礎研究および実際の経験から得た成果と知識を利用し,発明された新しい材料,装置,製品,システム,工程,サービスの事業化可能性を工学的かつ社会経済学的アプローチで具体的に検討することと定義している。
 こうした改革の流れに併せて,ベンチャー開発戦略研究センターは文部科学省から委託を受けた「戦略的研究拠点育成事業」の中核的な取組みとして,2003年にベンチャー創出・支援研究事業を立ち上げた。この事業は,産総研の研究成果をベースにし,2年間でベンチャー起業に取り組む研究者を支援する制度である。産総研の中で自分の研究テーマを元にベンチャーを起業したい研究者を研究所内で公募し,審査・採択するとその研究者に対してベンチャー起業までの研究開発費(年間3000万円程度)や,市場調査,顧客候補の開拓,事業計画策定,法務・財務・税務・知的財産に関する専門家相談などの支援機能を提供するという制度である。この制度の特徴は,スタートアップ・アドバイザと呼ばれる技術・経営の目利き役を産総研職員として採用し,2年間,研究者とともに起業準備を行う点である。スタートアップ・アドバイザは技術系の研究開発の経験があり,技術開発成果の事業化の経験を持っている。起業時には担当したベンチャー企業の経営者として創業に参画する。
 また産総研は,この仕組みを円滑に運営するため,人事制度や知的財産の管理制度なども見直した。例えば,ベンチャー創出活動を個人評価の対象に加え,必ずしも論文数などで評価しない,また休職制度を弾力化し,ベンチャー創業を目的として休職した研究者に対して復職する権利を担保するなどである。その結果,このベンチャー創出支援研究事業には,毎年30件程度の応募があり,3割程度が採択され,ベンチャーの起業に結び付いている。これまでに49件が採択されて,すでに,この制度を通して30社のベンチャー企業が生まれている。また,この制度によらないベンチャーも含めて,産総研技術移転ベンチャーの数は全部で78社となっている。
 冒頭のアンケート調査は,こうした改革の成果を図る一つの指標として,2006年に産総研で実施されたものである。制度がスタートする前の2001年の状況と比較して,明らかに研究者の意識改革が進んだことが伺われる。ベンチャー開発戦略研究センターは,こうした成果を踏まえ,文部科学省の「戦略的研究拠点育成」事業の終了以降も,研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォームとしてこの事業を継続的に運用するとしている。また,外部機関に対しても本プラットフォームの普及を図りたい考えだ。

 本シリーズでは今後数回にわたり,ベンチャー創出の仕組みの一つとして産総研のベンチャー企業創出プラットフォームを取り上げ,その詳細を解説する。併せて,同プラットフォームの特徴であるスタートアップ・アドバイザや,産総研発ベンチャー企業へのインタビューを通して同仕組みの有効性や課題についても検討していく。


図1:「産総研研究者の意識改革状況に関するアンケート調査」結果(1)
図1:「産総研研究者の意識改革状況に関するアンケート調査」結果(1)

「産業界のニーズを意識した研究テーマの設定や方向付けをしていますか」という質問に対して,83.4%が「はい」と回答。2006年5月に産総研の研究者を対象に実施,有効回答数609人。

図2:「産総研研究者の意識改革状況に関するアンケート調査」結果(2)
図2:「産総研研究者の意識改革状況に関するアンケート調査」結果(2)

「どのようなスタンスで知財創出に努めていますか」との質問に対して,48.9%が「産業界での活用可能性を十分考慮した上で知財創出に努めている」と回答。

図3:「産総研研究者の意識改革状況に関するアンケート調査」結果(3)
図3:「産総研研究者の意識改革状況に関するアンケート調査」結果(3)

「ベンチャー創出により事業化が可能な研究成果が上がった場合には積極的にベンチャーを創出したいと思いますか」という質問に対して,32.5%の研究者が「はい」と回答。

産総研にみるハイテク・ベンチャー企業創出の実践と課題
  【第1回】 日本最大級の研究機関「産業技術総合研究所の地殻変動」 [2007年01月09日]
  【第2回】 産総研の「研究開発型ベンチャー企業創出プラットフォーム」の全容が明らかに [2007年01月15日]
  【第3回】 研究機関発ベンチャー起業準備の要諦 [2007年01月22日]
  【第4回】 計測技術のアイカンタム 産総研の計量標準技術の製品化を先導 [2007年01月25日]
  【第5回】 ベンチャー起業前の2年間で事業モデルを徹底的に検討 [2007年01月30日]
  【第6回】 ベンチャー企業は成功神話の主人公ではない,産業構造を変える国の政策の担い手だ [2007年02月06日]
  【第7回】 組織があり,人がいるのではなく,人がいて組織ができるのだ [2007年02月09日]
  【最終回】 ベンチャー企業創出に関する「知」を集積 [2007年02月19日]

記事要点掲載先:日経BPTech-On!/Silicon Online

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