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4つのアンチエイジング・トレンドが明らかに 第二回 地球規模で広がる「肥満」
[2009/08/18]
米国を筆頭に,肥満は先進国共通の健康課題であるだけでなく,新興国の経済発展に伴い,地球規模の“災厄”として広がりつつある。一方,肥満治療・予防研究は端緒についたばかりといっても過言ではなく,その“決定打”は確立されていない。肥満への介入は,アンチエイジング研究の重要テーマであるばかりではなく,今後の有望市場として大手の製薬企業,食品メーカーを巻き込んだ形で,市場争奪戦が始まりつつある。 肥満市場に大きな期待を寄せる製薬企業と食品メーカー 慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授が,カロリーリストリクションと並んで,アンチエイジング研究のトレンドとして指摘するのが,肥満研究だ。メタボリック・シンドローム,心疾患や脳卒中,糖尿病,関節炎,一部のがんなどの慢性疾患のリスク要因の1つである肥満は,全世界で拡大しており,米国保健社会福祉省によると肥満の人は正常体重の人に比べ,あらゆる原因で早死にするリスクが50〜100%高まるという(図1)。米国では,国民の3分の1が肥満で,このうち1000万人近くが病的な肥満(BMI>40)と見られ,それによる医療費負担や労働生産性の低下は1350億ドルを超えるという報告もある。
肥満の原因として,約50種類の関連遺伝子や腸内細菌の関与などが報告されているが,その“発症メカニズム”は極めて複雑であり,今後の解明が待たれるところである。そのため,現在の肥満治療は,食事療法,運動療法,行動・心理療法,薬物療法,外科治療などを柱に進められ,運動と食生活の改善が基本となっている。 肥満市場に大きな期待を寄せるのが,製薬企業と食品メーカーである。現在,治療薬として用いられている抗肥満薬は,リパーゼ阻害薬やセロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬,レプチン作動薬などがある。ただ,順調な市場拡大を果たせているかというと,そうでもない。米国では,Meridia(一般名sibutramine/Abbott Laboratories社),Xenical(一般名olistat/GlaxoSmithKline社)の2剤が承認されているが,2001年〜05年で売上が40%以上落ち込んだ。いずれも副作用の発現を多くの消費者が嫌気したことが原因とされる。また,2007年にはSanofi-Aventis社のAcomplia(一般名rimonabant)が,中枢神経系の副作用の懸念から米国では認可が却下されるなど,逆風も吹いている。 一方,食品メーカーも肥満市場への参入を始めている。具体的には,満腹感を与える食品成分の探索および開発で,Kraft Foods社は難消化性でんぷんの満腹効果の検証を進めている。英国のPhytopharm社は,南アフリカのサン族が飢餓を防ぐために使用してきたカラハリ砂漠のサボテン「フーディア ゴルドニー」から有効成分P57を単離,Unilever社と共同で製品化を進めている。また,Danone社は食物が消化管を通過する速度を遅らせ,満腹感を長時間保つ新たな食物繊維の特許を取得した。 今回,これら調査分析について,日経ヘルスラボレポート「アンチエイジング・機能性化粧品の市場・技術動向2009」(発行:テクノアソシエーツ)の中でまとめた。本レポートでは,アンチエイジング研究をリードする有識者や研究者,企業への取材や消費者へのアンケート調査を基にアンチエイジングの市場動向や研究開発動向をレポートしている。加えて,知財調査・コンサルティング会社であるSBIインテクストラの調査協力により,市場のメインプレーヤーである化粧品メーカー,原料メーカーなどの特許出願状況を分析。各社の技術競争力と地域戦略の側面から,アンチエイジング市場の行方を見通す。
(テクノアソシエーツ 笹木雄剛)
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