|
|||||||||
白澤卓二教授が展望 新時代のアンチエイジング医学とは第1回踊場にさしかかったアンチエイジング
[2009/01/30]
現代の消費トレンドを表す,もっとも重要なキーワードのひとつがアンチエイジング(抗加齢)だ。予防医学や美容医学だけでなく,化粧品,食品,フィットネスなど,その領域は拡大し続けている。反面,消費者に受け入れられるアンチエイジングビジネスとそうでないビジネスがあることも見えてきた。いまアンチエイジングはどこへ向かおうとしているのか。抗加齢医学の専門家である順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座の白澤卓二教授に聞いた。 拡大を続けるアンチエイジング産業 アンチエイジングという言葉が誕生したのは,1980年代のアメリカだった。当時の米国政府は予防医学に力を入れており「ヘルシーピープル運動」といった国家的な取り組みも生まれた。これは,65歳以上の高齢者のうち,社会制度的な機関からのケアを必要とする人を9%以下にしようというものだ。 こうした政府の後押しもあり,人々の間には「病気をしないことが健康ではない。健康の質は,より積極的な取り組みで向上できる」というオプティマルヘルスの考え方が広まった。その究極の姿がアンチエイジング(抗加齢)医学だ。加齢とともに減少する成長ホルモンや性ホルモンを補充するなど,医療によって若々しい体を取り戻そうという新たな取り組みに注目が集まり出した。 アメリカでは,ホルモン補充療法を中心に臨床研究が進み,1992年に米国抗加齢医学会(American Academy of Anti-Aging Medicine; A4M)が結成された。このことは,アンチエイジングが医学の一領域として認められたことを示しており,これを機にその考えが世界に広がった。2001年に日本抗加齢医学会の第一回研究会が開催されたのを皮切りに,2003年にはフランスのパリで「Anti-Aging World Conference」が開催,2004年には韓国抗加齢医学会が設立された。 現在ではアンチエイジングは,幅広い健康関連産業を取り込みながら,拡大を続けている。アメリカでは,ベビーブーム世代の高齢化を背景に,数10億ドルもの産業が生み出されている。日本では正確な統計は無いが,2007年から大量退職時代を迎えた団塊の世代による健康食品の購入や会員制健康管理クラブの利用が伸びているという。 ただ,白澤卓二・順天堂大学教授は,「必ずしもすべての取り組みが成功しているわけではないことが見えてきた」と指摘する。 医療サービスは自由診療が壁に
例えば,内科医療のひとつとしてアンチエイジング外来を標榜する医療機関が増えてきましたが,ビジネスモデルとして成功しているところは多くありません。経営が成り立たず,アンチエイジング外来の閉鎖も増えてきました。原因の一つは,患者のリピート(再来)率が非常に低いことです。例えば,比較的有名なアンチエイジング外来で,2回目の費用をほぼ無料にしても17%の再来率でした。糖尿病や高血圧の治療で再来しないなんてあり得ませんから,経営が成り立たないのは当たり前です。しかも,同じようなことがアメリカでホルモン補充療法を行っている医療機関などで起こっています。 不振の原因は,アンチエイジング外来が自由診療であることに起因すると思っています。アンチエイジングに興味を持って受診しても,まずはさまざまな検査を受ける。結果を出すためには生活習慣の改善などが必要で,負担も大きく,効果を実感するまでに時間がかかる。お金をかけるモチベーションを保てないのです。 アンチエイジング医療の成功領域 自由診療がネックになって開花しないアンチエイジング外来。逆にアンチエイジング医療のなかで,どのような領域が成功しているのだろうか。 白澤 美容皮膚科,美容形成外科などコスメ領域でのアンチエイジング医療はうまくいっています。美白やシワとりなど,成果が目に見え,しかも,見た目を維持するために再治療が必要になる。そのため,リピート率が非常に高い。さらに,美容皮膚科や美容形成外科については,患者の中に自由診療の考えが浸透しているので,(費用をかけることに)抵抗がほとんどないのです。 こうした皮膚科,整形外科領域と内科領域における成功事例が,じつはヨーロッパのアンチエイジング医療です。ヨーロッパの抗加齢医学会に参加しているのは3000人ほどですが,内科医は半分,残りの半分は美容皮膚科医と美容形成外科医です。しかも,行っているのはスパ,アロマ,エステなどを含んだ,いわば「エステティックメディシン」という日本にはないジャンルの医療で,利用者の満足度も高い。 日本の美容皮膚科や美容形成外科が「見た目」だけに特化しているのに対して,ヨーロッパでは体の内側と外側の両方からアプローチしています。肌の調子などは,全身の状態が反映されるわけですから,理にかなったアプローチといえますね。 ヨーロッパの取り組みは,日米と比較して顧客満足度が高い。では,日本のアンチエイジングは,これからどのような方向に進めばいいのだろうか。 白澤 日本抗加齢医学会には,ヨーロッパの倍の6000名の会員がいます。その70%は内科を中心とした開業医です。今後,アンチエイジング医療をどうしていくか,「出口」を探すことも私のミッションとなっています。美容医学との融合もそのひとつです。日本抗加齢医学会では,美容皮膚科や美容形成外科との共同研究などを検討しています。 しかし,日本のもっと幅広い人々の健康づくりにアンチエイジング医療の成果を役立てていくためには,やはり食生活の見直しやサプリメントの活用,運動療法などを,社会のニーズにマッチした方法で提供することが不可欠です。こうした新たな発想に基づく健康づくりのモデルを構築する。これが,順天堂大学の加齢制御医学講座の研究テーマです。 次回は,加齢制御に向けた白澤教授の考え方と,新しいアンチエイジング医療の取り組みを紹介する。
白澤卓二教授が展望 新時代のアンチエイジング医学とは
第1回 踊場にさしかかったアンチエイジング 第2回 抗加齢から加齢制御へ〜キーワードは「食事」「運動」「生きがい」〜 第3回 白澤教授が取り組む加齢制御医学の実際 〜食品の機能ユニットに注目〜 |
|||||||||
Copyright (c)2008-2013 TechnoAssociates, Inc. All Rights Reserved. |