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MOT強者の戦略〜Samsung,3M,日産
慶大ビジネス・スクール教授,許斐義信氏に聞く(下)

慶應義塾大学ビジネス・スクール研究科教授の許斐義信(このみ・よしのぶ)氏 技術力を牽引車として成長してきた日本の技術系企業の多くが,曲がり角に立たされている。日本のエレクトロニクス産業に代表されるように,1980年代までは,次世代の「本命技術」を嗅ぎ分ける目利き能力がうまく機能し,日本企業は効率的に製品開発を進めて世界市場でリードした。しかし,この10年余りで競争条件は大きく変わり,従来の日本的経営の強みが発揮できなくなっている。こうした壁を乗り越えるために技術経営(MOT)の視点を持つことが極めて重要になってきた。前回に引き続き,慶應義塾大学ビジネス・スクール教授の許斐義信(このみ・よしのぶ)氏に,MOTで成功している企業の実例とその成功要因について聞いた。

日本的経営に戦略性を付加する
 新しい競争環境へ日本的経営を適合させていくために最も必要なことは,経営に戦略性を付加することだと考える。国内市場に活力があり,日本企業の生産技術力が群を抜いていた時代は,現場対応的に問題に対処しても事足りた。経営者も理念的なことをキャッチ・フレーズとして掲げ,数字合わせ的な管理能力さえあればやっていけた。しかし現在は,中小企業を含めた多くの日本企業が,国内だけではなく中国のように急成長を遂げている発展途上の海外市場で覇者を目指さなくてはならなくなった。当然,経営の国際化に対応でき,異文化に通用する新しいマーケティング手法が必要になっている。そうした,異環境の中でやっていくためは,抽象度が高過ぎる経営は通用しない。経営者は,経営意思を明確に伝達する能力,事業プロモータとしての高い専門能力,戦略性を,同時に求められているようになってきた。
 こうした観点から注目に値する三つの企業を紹介したい。

Samsungの強さの源泉
 際立って強い経営をしている企業として,韓国Samsung Electronics Co., Ltd.を挙げることができる。一般にSamsungの強さは,経営の選択と集中によって投資ドメインを限定して集中投資し,それによって得られたスケール・メリットを生かして生産コストを引き下げ,コスト・リーダーシップを取る戦略にあると言われている。確かに日本のDRAMやTFT液晶はこの戦略にやられたが,こうした戦略の発動を裏打ちした「強い経営」があったことに注目したい。Samsungグループのオーナー会長である李健煕(イ・ゴンヒ)氏をはじめ,Samsungの事業責任者たちは,投資家や株主に対する強烈な責任感,事業家としてのセンス,当事者意識を持っており,経営に緊張感がある。それに比べ,現在の日本企業の経営者と現場の関係は,ぬるま湯状態と言わざるを得ない。日本も,以前には強烈な事業家センスを持った経営者が多数いたが,その時代の攻め型の経営を依然やり通しているのがSamsungであり,Samsung経営の強さの源泉と言えるだろう。

3Mの経営的実験
 Samsungが製造プロセスのイノベーション強力に推し進めたのに対し,研究開発のプロセスのイノベーションを展開している企業の代表例が米3M社である。3Mは「テクノロジープラットフォーム」と呼ばれる独自の技術基盤を研究開発の中核としていることで知られている。汎用性の高い独自のコア技術を派生分化させることによって,様々な市場で製品を展開する。現在は30を超えるプラットフォームを運用し,これらを3Mのイノベーションの源泉としている。最近は,このリソース立脚型の経営と戦略型の経営をいかに組み合わせるかという実験を進行させている。3Mのグローバル・ネットワークの中で,研究開発のニーズとシーズを組み合わせる仕組みを構築し,成果を上げているのだ。このことは,個々の研究開発者が,戦略的な経営意識を持ち始めたことを意味しており,社員がイノベータとして3Mを引っぱっていると言って良い。日本企業がぜひ見習いたい事例である。

日産の改革支えた現場のポテンシャル
 国内企業で注目したいのが,日産自動車である。日産というと「ゴーン改革」が真っ先に言われるが,Carlos Ghosn氏が始めたことは,本質的にはバランス・シート改革だったことを見失ってはならない。また「日産の改革は,日産の社内や過去にしがらみのないGhosn氏だからできた」と言われるが,これはかなり一方的な見方だ。確かに,経営者として強烈な責任感を持つGhosn氏の指導力があったからこそ,バランス・シートに大鉈(なた)を振るうことができ,改革の連鎖の最初のドミノを倒すことができた。しかし,その後の製造,マーケティング,営業の各現場での改革は,綿密な技術経営的な戦略が存在しなければあり得なかった。

日本的経営はより高次のレベルで再生できる
 最近,製造業の企業の再生を考える時,時間当たりの生産性という指標が重要と考えるようになった。日産の例でいえば,工場の1つのラインで7車種を製造できるように改革できたことによって,総資産の効率性と総資本の回転率が高まり,そのことが株価に好影響を与えた。社員が事業家的な視点や資本家的な視点を持って取り組んだからこそ実現した改革だと思う。Ghosn氏の指導力だけではなく,日産の中間管理職や現場社員にこうした改革をやり遂げるポテンシャルが,日産の改革全体に対して大きく寄与している。
 日本的経営が持っている強さの源泉の1つは,中間管理職や現場社員の強さである。これまで述べてきたように,単純な現場任せという従来の形で,うまく経営が回った時代は終わった。しかし,経営に戦略性が付与され,現場もその戦略を理解して実現するように行動すれば,日本的経営はより高次のレベルで再生すると確信している。(前回の記事

日経BP社,慶應義塾大学ビジネス・スクール,日経メディアマーケテイングは共同で「技術経営実践能カ養成スクール」を開講しており,許斐氏はこのスクールの講師を務める。第一回シンポジウムでは,Samsung,3M,日産などの技術経営に関する発表を予定している。
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