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白澤卓二教授が展望 新時代のアンチエイジング医学とは

第3回
白澤教授が取り組む加齢制御医学の実際
〜食品の機能ユニットに注目〜

[2009/02/05]



 私たちの体で加齢変化(老化)が進むのを食事や運動などの生活習慣でコントロールすることで,QOL(生活の質)を良い状態に保つ。それが順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座の白澤教授が提唱する新しいアンチエイジングの姿,「加齢制御医学」である。
 白澤教授は,現在,地域の医療機関と協力して加齢制御医学の実証研究を行っている。前回の記事でも紹介したが,生活習慣改善の大きなポイントになるのが「食事」「運動」「生きがい」。一見,オーソドックスな健康法のように思えるが,具体的処方には白澤教授がこれまで培ってきた基礎研究の裏付けがある。


基礎研究から生まれた逆転の発想

 白澤教授は,千葉大学医学部を卒業後,寿命制御遺伝子の分子遺伝学,アルツハイマー病の分子生物学の研究に取り組み,東京都老人総合研究所の研究部長などを務めた。なかでも線虫の寿命を決定している遺伝子のひとつを解明したことで知られる。白澤教授が,実践的な加齢制御医学を目指すようになったきっかけは,実は基礎研究で得たインスピレーションだった。


順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座 白澤卓二教授
順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座
白澤卓二教授
白澤 1990年代,私が研究テーマとしていたのは,寿命遺伝子の解明とアルツハイマー病発症の分子生物学でした。病気の研究は,患者を治す治療法を見つけることが当面の大きな目標ですが,究極の目標は予防です。天然痘などの病気が撲滅できたのも,治療法だけでなくワクチンという予防法が登場したからです。
 当時の研究生活のなかで,まず私が直感したのは,アルツハイマー病の最大の発症要因は「年をとる」ことだということです。そして,「人間の寿命を延ばすような生活改善は,アルツハイマー病の発症年齢を遅くし,将来的にはその人生のなかではアルツハイマー病を発症しないようにできる。アルツハイマー病の最大の予防法は年をとらないことだ」と,逆転の発想にたどり着いたのです。


 こうした白澤教授の発想に,世界の老化研究もキャッチアップしてきた。寿命を伸ばす可能性の研究では,まず白澤教授は,線虫の寿命を2倍に伸ばすことに成功。特定の遺伝子の発現を促すような生活が寿命を伸ばすことにつながることを明らかにした。また,世界の老化研究でも,実験動物の摂取カロリーを制限することや,運動状況を改善することで加齢現象を抑制できることが解明された。そして,さらにこれらの方法でネズミの寿命を伸ばしたら,アルツハイマー病の発症が遅れたという研究が次々と出てきたのだ。


白澤 私たち人間の健康管理にこうした科学成果を役立てる時代がやってきたと感じました。特に,認知症の予防のためには,医薬品よりも食事が重要な役割を果たすということを科学的に実証していきたい。現在,さまざまな医療機関と協力しながらモデル事業を立ち上げており,患者さんからの支持も得られています。


抗加齢遺伝子Sir-2や抗炎症のアプローチ

 白澤教授が担当する順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座の実証研究では,抗加齢医学の成果が応用されているが,白澤教授はいま何に注目しているのだろうか。例えば「抗酸化」というアプローチは,現在もアンチエイジングのテーマといえるのか。

白澤 老化の研究をする人が100人いれば,老化理論は100あるといわれています。一方,糖尿病研究では,そういうことはありません。
 誰も,老化を考えずに死ぬことはできないから,分かりやすい考えを求め,研究者も,実践よりも理論に取り組んできた背景があります。こうして生まれたさまざまな理論のなかで,もっとも長生きしている理論が活性酸素理論です。1950年代に提唱され,現在でもエイジングの重要理論として研究が進められています。
 もちろん,新たな老化理論も登場しています。Sir-2という抗加齢遺伝子は,活性酸素とは違うアプローチで老化を説明しています。細胞のなかで起きたマイクロインフラメーション(微小炎症)が老化を引き起こすという考え方も出てきています。抗酸化や抗炎症は,医薬品やサプリメントなどを開発するメーカーにとってアプローチしやすいテーマともいえます。


食品の機能ユニットに注目

 白澤教授のモデル事業では,科学的エビデンスのあるさまざまな生活提案を取り入れている。そのなかで血管年齢の制御や認知症予防に効果のある新しいアプローチとして注目しているのは,炭水化物,たんぱく質,脂質といった三大栄養素の機能を補う成分をバランスよく摂取する「機能ユニット」の考え方だ。


白澤 例えば,精米される前の玄米は,発芽するための機能がひと単位で揃っている「お米としての機能ユニット」ということができます。白米のエネルギーを分解する機能を持つ栄養素も,玄米のなかにはあります。そのため白米を食べる時は,玄米から省かれた機能ユニットを補う栄養素を,おかずから摂ることが理想です。糖類や炭水化物など,エネルギーだけを重視した食事が増えれば増えるほど,このバランスは崩れ,それが血管年齢や認知機能に大きく影響します。動物実験で,カロリー制限をすると加齢現象が抑制されるのも,こうした食品の機能バランスが改善されている可能性があります。現在は,これがアンチエイジング医療のなかで勧める食事改善の理論的背景になると考えています。


 白澤教授は,アスタキサンチンの脳機能改善効果など,さまざまな栄養素の機能にも注目しているが,もっと根本的で誰もが日常的に取り組めるアプローチとして,機能ユニットとしての食事バランスを考えている。実際,モデル事業に協力している医療機関で,食品機能バランスを整えた食事を提供することで,患者の血管年齢や脳機能が改善するなどの効果が出ているという。
 人々が避けることができないエイジングを,食事や運動といった生活習慣を最適化することでコントロールする。実際の臨床現場での成果を医療に応用する白澤教授の取り組みは,アンチエイジング医療の新たな姿を示すものといえそうだ。







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